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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

どう思いますか、この朝令暮改…軽症者はPCR陰性を確認しなくてもよい?

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どう思いますか、この朝令暮改…軽症者はPCR陰性を確認しなくてもよい?

 NPO「目と心の健康相談室」の理事長から、新型コロナウイルス(COVID-19)感染から回復した50歳代の女性Hさんに関するメールが来ました。

 彼女は、目を開け続けることが難しい 眼瞼痙攣(がんけんけいれん) という病気で、近くの医院でボツリヌス注射を定期的に受けながら仕事を継続していました。仕事復帰前に注射を受けたいと希望したところ、感染症直後では引き受けられないといわれたそうです。メールは、私の外来でできないかという依頼でした。私は即座に「やりましょう」と答えましたが、現場の看護師たちから「待った」がかかりました。

 「詳細な経過を知りたい」「PCR検査はいつ陰性になったのか」「治療を行う医師は高齢(私)だから、万一感染したら大変」などいろいろな意見が出たようです。

 うかつにも、Hさんの詳細な経過を聞いていなかった私は、改めて問い合わせました。

 ご主人がCOVID-19で入院となりました。Hさんも4月4日から38度台の発熱が4、5日間続き、その後もしばらく37度台の熱があったため、同じ病院でPCR検査をし、同14日に陽性と判明しました。

 その時点では無症状のため、陽性者用ホテルでの生活が同17日から始まりました。陽性だと判明してから2週間の経過は良好で、同28日に退所となりました。退所前に2度の陰性が確認されているものと私は思っていましたが、検査はその後、一度も行われず、保健所に直接、依頼もしたが断られたそうです。

 厚労省が出した文書の、「宿泊療養・自宅療養の解除の基準」のただし書きに、「軽症者等にPCR検査を実施する体制をとることにより、重症者に対する医療提供に支障が生じる可能性がある場合、宿泊療養・自宅療養開始から14日間経過した場合に(健康観察によって)解除する」とあり、PCR検査での陰性の確認は必須ではないことにいつの間にかなっていました。

 重症者の優先は当然です。しかし、一般医療機関にとって、症状がほとんどなかったとはいえ陰性が確認されていない患者をどう扱うべきか、判断材料は不十分です。

 医療機関は、私個人だけでなく、大勢の患者、医療従事者がいる空間であり、院内感染が起きれば責任問題です。彼女が復帰しようとしている職場では、もっと心配するかもしれません。

 実際にこのウイルスは無症状でも感染しうる、再び陽性化する可能性がある、6週間以上、陽性が継続した例の報告があるなど、謎だらけです。

 「感染したことを黙っていればよかった」ともHさんは言ったそうです。感染した人を、しかも正直に事実を伝えた人を、必要以上に拒絶するのは差別に等しい行為と言えます。

 我が国のPCR検査の規模の小ささが当初から問題になり、首相は増やすと公言しましたが結果は伴っていません。そのために、朝令暮改的な不徹底なこのようなルールを出さざるをえなくなったのでしょう。

 回復者が差別なく社会復帰できる体制を整えるのは、政治の重要な仕事のはずですが……。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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