文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

知りたい!

医療・健康・介護のニュース・解説

日本のECMO(エクモ)治療体制は脆弱ではない

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

JCHO九州病院心臓血管外科 徳永滋彦

自治医科大学さいたま医療センター臨床工学部 百瀬直樹

 新型コロナウイルス感染はいまだ世界中で猛威を振るっており、我が国においても医療崩壊が危惧されています。新型コロナ肺炎重症患者さんは、重度の肺炎による呼吸不全のため人工呼吸器の装着が必要な場合があります。しかしさらに病態が悪化すると、ECMOという補助装置が必要となる場合があります。

 ECMOに関しては先日、救命救急医の見地から、「新型コロナ:ECMOの数より、扱える専門医が足りないという日本の現実」という記事が出されました。これは救急現場からの切羽詰まった現状を訴えるものであり、医療崩壊を起こさないためにも、「Stay home」の大切さを再認識させる貴重なご意見でした。が、その一方で、「日本のECMO治療体制は、そんなにも貧弱なものなのか」と不安に感じた方々も多数おられると思います。そこで、ECMOとは何か、そして、我が国におけるECMO治療の現況について解説したいと思います。

「V-V ECMO」と「V-A ECMO」

 

日本のECMO(エクモ)治療体制は脆弱ではない

 まずECMOとは、「体外式膜型人工肺による酸素化」のことで、心臓に返ってくる静脈血を外に取り出し、人工肺で酸素と二酸化炭素の交換(ガス交換)を行い、その血を患者の血管に送り込む治療法です。大きく分けて、次の2種類があります。

1.呼吸の補助を行う「V-V ECMO」(静脈脱血-静脈送血のECMO)…肺炎などで使用

2.呼吸と心臓の補助を行う「V-A ECMO」(静脈脱血-動脈送血のECMO)…心臓冠動脈病変に対するカテーテル治療(ステント治療)前後の心筋 梗塞(こうそく) や、心臓手術後の心不全などで使う

 日本でECMOというと、呼吸補助を目的としたV-V ECMOを示すことが多いのです。これに対し、V-A ECMOは多くの場合、皮膚から血管に針を刺し(経皮的に)、血液の出し入れを行う管(カニューレ)を入れ、心臓と肺を補助することからPCPS(経皮的心肺補助)と呼ばれています。新型コロナ肺炎に関してはその主な症状が呼吸器障害であるため、呼吸補助のV-V ECMOが中心になりますが、中国からの報告によると、新型コロナ肺炎では心筋障害をきたすこともあるとのことですので、病状によってはV-V ECMOから、より複雑な治療戦略や管理を要する心肺補助のV-A ECMOへの変更が必要となります。

 このPCPSという名称は、日本と一部の国でしか使用されておらず、国際的には経皮的V-A ECMOと呼ばれます。心臓手術で使用する人工心肺やECMO治療に直接携わる体外循環技士の学会である日本体外循環技術医学会(JaSECT)では、一般向けのECMO解説を ホームページに掲載しています

わが国には千数百台のECMO装置がある

  さて、先日の記事「新型コロナ:ECMOの数より、扱える専門医が足りないという日本の現実」において、その概要は、

(1)我が国のECMOの機器台数は約400台

(2)ECMO専門家は、どんなにかき集めても全国で60人程度

(3)1施設の年間ECMO症例数は、せいぜい2~3例である

というものでした。これを読んだ方々の中には、この新型コロナパンデミックの中、頼みの綱となるECMO治療に関してはわずか60人の医師が年間2~3例を実施し(つまり日本では年間120例から180例しか実績がなくて)、24時間、少人数の医師がクタクタになって治療する……そんなに貧弱な体制なのだろうかと、不安に思われた方もおられたと思います。

 日本のECMO治療に関しては、日本体外循環技術医学会が、数年おきにアンケート調査を行っています。それによると、

(1)ECMO機器台数:1施設当たりECMO機器保有台数は図1の通りで、2017年の集計では、少なくとも1147台のECMO装置が我が国にはあります(最新の集計では1412台:2020年3月9日、人工呼吸器およびECMO装置の取扱台数等に関する緊急調査;日本呼吸療法医学会、日本臨床工学技士会)。

id=20200501-027-OYTEI50013,rev=2,headline=false,link=true,float=left,lineFeed=true

図1:一施設当たりのECMO機器保有台数の分布(日本体外循環技術医学会調査より)

 

 

(2)ECMOに携わるマンパワーに関しては後述します。

(3)ECMO症例数:ECMO治療(V-V ECMOまたはV-A ECMO)を行っている施設数は、17年時点で466施設、年間ECMO症例数は、16年時点で5524例。1施設当たりの年間ECMO症例数は、図2の通りです。これによると、少なくともECMO全症例の半数以上は、「年間11例以上」の施設で行われて(ほぼ毎月1例は行われて)いることになります。

id=20200501-027-OYTEI50014,rev=2,headline=false,link=true,float=left,lineFeed=true

図2:1施設あたりのECMO(V-A ECMO,V-V ECMO)症例分布(日本体外循環技術医学会調査より)

 

 

 実際、19年12月現在、日本で心臓手術を行っている病院数は613施設あり(日本心臓血管外科手術データベース機構より)、これらの施設では、万が一、心臓手術後の心不全が起きた場合に対応し、ECMOが施行できる体制にあります。また、全国の心臓カテーテル治療を行う病院にもECMO施行可能なところが数多くあります。

 では、前出の記事と、この調査の数の違いは、どこから来るのでしょうか?

 これは、前者が救急医療現場での、主にV-V ECMOの集計である一方、私が示した数字は、V-V ECMOとV-A ECMOを合わせたより幅広い集計である、という違いによるものと思われます。

1 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!の一覧を見る

最新記事