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新型コロナ肺炎に呼吸困難を感じない「隠れ低酸素症」の可能性 進行に気づかず悪化…酸素測るパルスオキシメーターの使用を

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心臓が止まるほどの低酸素状態でも呼吸困難感を訴えず

 

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 炭酸ガスがたまってしまった慢性肺疾患の場合、炭酸ガスセンサーが機能せず、呼吸の調節は酸素の量の変化だけで行われているため、ほんの少し酸素を吸うだけで呼吸中枢が十分だと思ってしまい、呼吸が止まることがある。また、麻酔から覚める時に、意識はあるのに、呼吸が酸素不足に反応しない場合がある。ほとんど心臓が止まるほど、あるいは意識を失うほどの低酸素状態になっても、呼吸困難感を訴えないことがある。新型コロナ肺炎は、まさにこの状態に似ている。致死的に低い酸素レベルにもかかわらず、普通に携帯電話で話をしていた例も知られているが、私も麻酔から覚めかけの患者で同じような状態を見たことがある。

麻酔の場合は、こうした生理学を熟知した麻酔科医が深刻な事態の発生を防止していて心配はないが、その際の頼りはパルスオキシメーターである。一見、元気そうであっても、急変が伝えられる新型コロナ肺炎患者の場合、パルスオキシメーターが連続的に使用されていれば、低酸素状態を早期に発見できた可能性がある。しかし、そのためには、医療者が重症患者で使う際と同様な使い方をすることが必要で、体温計のような一日2回といったチェックでは不十分だ。数値の変化をしっかり評価できる知識も必要となる。

正しい使い方で、切り札となる可能性

  パルスオキシメーターは、目にみえない微弱な拍動信号を何千万倍も増幅して得られた、人工的な数値を示している装置である。それだけに、循環(手指の温かさ)や体動(手足の動き)の影響を受けやすい。医療用の装置はだいぶ改良されているが、それでも心臓による拍動と、体動がもたらす拍動との区別は難しい。数値を一人歩きさせ、明らかな異常値を見過ごしてしまっては、元も子もない。新型コロナ肺炎で要経過観察とされた患者には、正しい使い方を指導した上で(これが重要)、パルスオキシメーターで頻繁に測定する体制を作ることが、サイレントハイポキシア対策の切り札となる可能性がある。

 日常生活で、健康な患者に使われる目的で広く普及しただけに、病気の患者での使用には特別の注意が必要なことを忘れてはならない。このパルスオキシメーターは、日本光電工業の青柳卓雄博士の発明(1974年)によるものであり、今では毎日、全世界で何百万人もの命を守っていることは、日本人として大きな誇りである。世界の医療者からノーベル賞目前とされていた青柳博士は、残念なことについ先日(4月18日)に、84歳で惜しまれつつ逝去された。

 博士は生前、その簡便さ故に広く一般社会にまで浸透したパルスオキシメーターの普及を喜ぶ一方で、正しい理解がないまま急速に広がっていることに強い懸念を持ち、最後まで研究を続けられていた。その恩恵を受けてきた私たち臨床家は、致死的な隠れた低酸素症発見の切り札となりうるパルスオキシメーターの正しい使い方と普及を、一般の方々にも啓発する役割が託されていると考えている。

参考文献

Miyasaka, K. Do we really know how pulse oximetry works? J Anesthesia 2003: 17(4), 216-217.

Levitan, R. The Infection That’s Silently Killing Coronavirus Patients. New York Times, April 20, 2020. (https://www.nytimes.com/2020/04/20/opinion/coronavirus-testing-pneumonia.html.)

宮坂 勝之(みやさか・かつゆき)

宮坂 勝之(みやさか・かつゆき)
  1944年 長野県生まれ。信州大学医学部卒業後、国立小児病院麻酔科、フィラデルフィア小児病院、トロント小児病院集中治療部員、国立成育医療センター手術・集中治療部長、長野県立こども病院院長、聖路加国際病院周術期センター長などを経て、2018年から聖路加国際大学大学院名誉教授、20年4月から和洋学園大学学長補佐。

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