Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登
医療・健康・介護のコラム
目から感染する可能性のある新型コロナウイルス
「新型コロナウイルスと眼科」(本コラム2020年4 月16日)で、急性結膜炎のことに触 れましたら、「はやり目のように、目からうつるのか」などの質問を受けました。そこで、現状をやや詳しく解説したいと思います。
中国・武漢市で呼吸器科の医師がCOVID-19肺炎に罹患しましたが、その数日前に結膜の充血に気付き、吉林大学の眼科医らが、目からも感染しうることを医学四大雑誌の一つ、週刊 の「ランセット」で警告したことが事の発端です。これを受けて、日本眼科医会が眼科医に警告 する文章を出しました。
4月1日には、同会と日本眼科学会が合同で「新型コロナウイルス感染症の目に関する情 報 に つ い て ( 国 民 の 皆 様 へ ) 」 を 発 表 し て い ま す 。
さて、COVID-19による結膜炎の頻度はどの程度なのでしょうか。「国民の皆様へ」と題した上記の文章には、「およそ1~3%とされていますが、まだ 十分なデータではありません」と記載されています。その後の英文論文を概観してみましょう。
38人の患者のうち12人が結膜炎の症状があり、2人のみ結膜からウイルスが検出されたとする論文や、発症13日目に結膜にウイルスが同定された30歳男性の報告例があります。 カナダからの報告では発熱のない軽症の女性例で、角膜、結膜の症状が強く出現し、結膜か らウイルスが検出されています。また、30例の患者に2、3 日おきに2 回、結膜と涙から採取した検体を調べた結果、結膜炎のあった1 例にのみいずれの検体からもウイルスが検出されたとの報告もあります。
では、その結膜炎はどの程度のものなのでしょうか。
他のウイルスや細菌でも、当然結膜炎は発症します。アデノウイルスによる流行性角結膜炎は多く見ていますが、一見してわかるほど重症なものが多く、カナダの症例はそれに近い症状を持っているように、論文からは読み取れます。一方、小児に多い、アデノウイルス陰性の感冒に伴う結膜炎や、花粉症などでのアレルギー性結膜炎では、見逃してしまうほど軽微なものもよく経験します。
以前、新型ではないコロナウイルスの感染症では、結膜炎は軽微なのに、他の粘膜からはウイルスは検出されず、涙からのみ検出された例が報告されたことがありました。つまり、結膜炎としての症状がほとんどなくても、結膜や涙からウイルスが検出されることもあるようなのです。
便からウイルスが検出される頻度は低いそうですが、発症から2か月以上たってすべての症状が改善しているのに、まだ便からは検出される例もあるようです。このように、ウイルスがいるから必ずそこに強い炎症が起こるとは限らないことも、頭に置いておきたいものです。
先の「国民の皆様へ」の中では、目からの感染防止のため、目を触らない、こすらないことと、手洗いの励行を求めています。また、眼科医向けには、眼科手術に対する考え方を示し、緊急を要さない手術については延期の選択肢も考慮することが書かれています。
こうした知識を得た70歳の私は、写真のような重装備で最近は診療をしています。 注意してしすぎることは、この未知のウイルス感染症に限ってはないと断言できます。
(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)
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眼科検査について
眼科受診者
涙や角膜から新型コロナウィルスが検出されたということですが、各種眼科検査時に患者同士の目から目への検査器具等を介しての感染の不安があります。 例...
涙や角膜から新型コロナウィルスが検出されたということですが、各種眼科検査時に患者同士の目から目への検査器具等を介しての感染の不安があります。
例えば眼鏡のレンズを取り替えながら計る視力検査、風を当てる眼圧検査、点眼して瞳孔を開く検査などです。
ウィルス保菌者が眼科検査を行った場合、検査器具等にウィルスが付着する危険性はないのでしょうか?
眼科においてはどのような対応をされているのでしょうか?
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若倉雅登
眼科受診者様 新型コロナ禍の眼科検査についてのご質問、ありがとうございます。おっしゃる通り、眼科では様々な検査があり、各種検査の際にウイルスや細...
眼科受診者様 新型コロナ禍の眼科検査についてのご質問、ありがとうございます。おっしゃる通り、眼科では様々な検査があり、各種検査の際にウイルスや細菌が付着したり、飛んだりする可能性は確かにあると思います。ただ、従来から、医師、看護師、検査員は感染症に対する教育を受け、診療上も注意していますから、検査に関してだけいえば、日常よりもむしろ安全と言えるかもしれません。眼科では、日常から、問診上で急性結膜炎などの感染が疑われる患者は別扱いにして診療を進めております。また、そうした患者の検査や診断をした後は、機器などの消毒が行われます。さらに現在は、どの医療施設でも新型コロナウイルス対策をとっており、多少でも疑われる場合には不要不急の眼科診療は後回しにし、感染の有無の確認を先にしていると思われます。新型コロナウイルスが、涙や結膜からも同定されうることがわかってきたので、各眼科医療機関では一層注意しているものと考えますが、未知の部分の多いウイルスですので、完璧に防止できているとまでは言えないでしょう。
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