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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

ポストコロナのオンライン診療

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ポストコロナのオンライン診療

 新型コロナウイルス感染症COVID-19の 蔓延(まんえん) は、地球を我がもの顔に一人勝ちしてきた人類を、天が (とが) めているのではないかという気さえ私はします。

 この事態で従来通りの日常生活、経済活動は抑制せざるを得なくなり、人々の行動や考え方に変化が表れてきたとも感じます。

  4月23日のコラム で私が懸念を示した、不要不急ということで通院を抑制したくても、対面診療でないと薬の処方ができないという決まり。これがネックになって患者も医師も困っていました。これに対する国と医師会の連携は、今回は迅速でした。電話などの情報通信機器による診療(オンライン診療)を取り入れ、眼科でも取り入れるところが増えました。

 実は、オンライン診療は平成30年(2018年)に本格的に始まった制度ですが、対象患者や施設基準が限られ、3か月に1回は対面診療と組み合わせないといけないなど煩雑さや制限事項が非常に多く、しかも初診は適用されませんでした。

 今回の措置は、COVID-19対策として臨時的に策定されたもので、制限つきの複雑な上記の制度とは別物です。

 確かに、医師会などが主張するように、詳細な視診や触診は対面診療でないと不可能ですし、対面で会話をしてはじめて把握できることがあることには異論はありません。ですが、そこにこだわり過ぎる必要があるのか、と私は思っていました。

 私の心療眼科外来には、まぶしさや痛みが強い、不安が強いなどや、随伴する身体症状のため平時であっても容易に通院できない方が少なくありません。また、セカンドオピニオンを求めて遠方からも来院されますが、大半の方はすでに地元で検査済みなので、初診の対面診療のために泊まりがけで来なくても、ビデオ通話などを用いればほぼ目的は達成できます。

 今回の臨時措置で、緑内障や、網膜や視神経の病気などで比較的落ち着いている多数の方々が定期的な薬の処方を受ける場合、電話などで状態を確認するだけでよくなりました。

 このように、不必要に病院や、医院に頻繁に通院しなくても十分医療の恩恵は受けられることを示しています。

 COVID-19のためだけの時限措置は、従来のいかなる場合でも対面診療が当然、という考え方の是非に、言い換えれば日本の診療制度に一石を投じていると思います。

 これを機に、COVID-19終息後のポストコロナの時期でも、オンライン診療がもっと容易にどの科でも利用できるようにすれば、人々に真に必要時のみ通院する習慣ができます。そうすれば、医療崩壊は起こりにくい構造となり、国の医療費削減にもなるはずです。

 COVID-19で、我々には十分すぎる時間が与えられました。この時間を利用して、経済活動を単に元通りに戻すことにこだわるのではなく、従来の面倒なしがらみや、煩雑でわかりにくく、利用しにくくなっていた点を見直して、より合理的にするための方策を考えるよい機会にすべきではないでしょうか。

 つらかった長い自粛のあとに、国民目線の心の通ったわかりやすい制度が再構築されるなら、まさにピンチをチャンスにすることになります。

  (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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