今井一彰「はじめよう上流医療 あいうべ体操で元気な体」
医療・健康・介護のコラム
虫歯で突然死?! あのアメリカ大統領も…
60歳で命を落としたルーズベルト大統領
さてクイズの答えに移りましょう。その人は、セオドア・ルーズベルト大統領。正解した!という人も多かったでしょうね。
彼が狩りの際に、 瀕死 の熊に向けて銃を撃たずに助けたという逸話から作られたクマのぬいぐるみに、大統領のあだ名であるテディがつけられ、テディベアと呼ばれています。軍人でもあり、勇敢な人物で、アメリカでは人気のある大統領の一人です。
彼は今から101年前の1月、突然、命を落としました。なんと60歳という若さでした。彼は華々しい功績の陰に隠れて、いろいろな病気に悩まされた半生を過ごしました。
虫歯が大統領を殺した!?
彼の病歴はというと、小児期はぜんそくで不自由な生活を強いられ、晩年はリウマチ性関節炎を患っています。そして突然死の原因は肺 塞栓 症といわれています。病弱な人だったかというとそうではなく、戦争では前線で戦ったり、南米を探検したりする勇敢な人物でした。
ルーズベルト大統領が亡くなった時の文献を見ると「歯が彼を殺した?」とあります。肺塞栓症とは、肺動脈に何らかの物質が詰まって血流が途絶えてしまうことにより起こります。身近な例だとロングフライト症候群(エコノミークラス症候群)があります。脚の血流が滞ってしまい、血栓ができ、それが動脈を塞いでしまうことによって起こります。
ルーズベルト大統領の場合は、虫歯菌のかたまりが塞栓子、つまり原因物質となったのではないかといわれています。
歯は骨に埋まっており、血流がとても豊富です。虫歯が進むと、口腔細菌がダイレクトに血液の中に入り込んでしまいます。健常人でも抜歯をするだけで、半数以上に血液中から細菌が検出されるほどです。ですから大きな手術の前は、その後の合併症を防ぐために丁寧な歯科治療が求められます。まさに、命の上流の状態が生命に直結しているのです。
口呼吸はぜんそくになりやすい 大統領は口呼吸だった?
ここからは私の推測になりますが、ルーズベルト大統領は慢性的な口呼吸状態だったのでしょう。彼が患っていた気管支 喘息 は、口呼吸があると、ない人に比べて2倍も発症しやすいという研究があります。これにアレルギー性鼻炎が加わると、なんと4倍も発症しやすくなります。口呼吸があると口の中が清潔に保てなくなり、プラークが付きやすかったり、虫歯になりやすかったりします。
執務の忙しさにより、虫歯の治療ができずに肺塞栓を起こしたとしたら、一本の虫歯がアメリカ大統領の命を奪ってしまったと言えます。虫歯はその他、反応性関節炎や心内膜炎、脳出血・脳 梗塞 などの脳卒中を引き起こす原因にもなります。たかが一本の虫歯と侮っては、痛い目に遭うかもしれません。
心身に表れる病気を一つ一つ別物と見るのではなく、時間経過に沿って追っていくと病気たちのつながりが見えてくることがあります。口呼吸から虫歯、続いて気管支ぜんそくや扁桃炎、そしてさらに次の病気というふうにです。虫歯の治療も大切ですが、虫歯にならない日頃の生活がもっと大切です。そして病の根っこを断ち切るためにも「上流医療」なんですね。(今井一彰 みらいクリニック院長・内科医)
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