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山中龍宏「子どもを守る」

医療・健康・介護のコラム

鼻に入れると穴が開き、飲み込むと出血多量で死亡も…ボタン電池の危険度

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魚肉ソーセージを1時間で溶かす

鼻に入れると穴が開き、飲み込むと出血多量で死亡も…ボタン電池の危険度

コイン形リチウム電池が魚肉ソーセージを溶かす

 こうした場合、食道でどんなことが起きているのでしょうか? 魚肉ソーセージを使った実験があります。

 魚肉ソーセージを輪切りにし、二つのソーセージ片の間にリチウム電池を挟み込みます。30分もたつと、ソーセージにはっきりとした変化が表れます。1時間後には、ソーセージが溶けてしまいます。化学反応で発生した液体のために溶けたのです。この液体は、台所用の漂白剤と似ています。漂白剤が指につくと、ヌルヌルして皮膚が溶けるのと同じように、粘膜を溶かしてしまいます。

 わずか1時間の間に、体の中ではこのような変化が起きるのです。使用済みの電池でも電流が発生し、同じようなことが起こります。

啓発活動をしても、誤飲は起こり続ける

  東京都商品等安全対策協議会は、2015年度の報告書「 子供に対するコイン形電池等の安全対策 」で、コイン形電池やそれを使用する製品に必要な安全対策などについて提言しています。電池のパッケージは、子どもの手では開けにくい構造になり、注意表示に「死に至るおそれがある」という文言が入るようになりました。一般社団法人電池工業会からは、「電池のふたは、きちんと固定!」「電池交換は子どもに見せない!」「放置せず、子どもが届かない場所に保管!」「誤飲したらすぐに病院へ!」という啓発が行われています。しかし、ボタン電池の誤飲例は起こり続けています。

根本的解決には「製品の改良」を

 ボタン電池の誤飲が重症化することを知らない保護者は、6割を占めると報告されています 。そこで、上で紹介した動画を見てもらい、傷害の深刻さについて、保護者の認識が変わるかどうかを調べてみましたが、変わりはありませんでした。しかし、ソーセージを使った実験を実際に行って見せたところ、深刻さを認識してもらうことができました。自分でも簡単に試してみることができますので、ぜひやってみてください。

 日本中毒情報センターの報告や、医学系の学会での発表を見ると、これまでの対策には限界があることがわかります。根本的には、製品を改良する必要があると私は考えています。

鼻に入れると穴が開き、飲み込むと出血多量で死亡も…ボタン電池の危険度

第11回 国際傷害対策学会で示された改良案

 2012年10月、第11回国際傷害対策学会(World Conference on Injury Prevention and Safety Promotion)がニュージーランドのウエリントンで開催され、ボタン電池に関するシンポジウムが開かれました。そこでは、製品の改良案が示されました。

(1)電気が流れることを防ぐため、電極に絶縁体の物質をつけ、装置に取り付けられた状態でのみ電気が流れ、装置から飛び出ると絶縁されるようにする

(2)ボタン電池を飲んだことがわからず、時間が経過してしまうことへの対策として、電池に色素剤を塗り、子どもが口に入れると色素が溶け出て、誤飲したことに早く気づくことができるようにする

(3)電池に羽根を付け、装置に入れるときは折りたたみ、装置から飛び出ると羽根が大きく広がって飲みにくくなるようにする

 しかし、それから7年以上たっても、製品そのものの改良は行われていないようです。日常生活でボタン電池が使用される機会は多く、より確実な対策を講じることが急務だと考えています。(山中龍宏 緑園こどもクリニック院長)

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山中 龍宏(やまなか・たつひろ)

 小児科医歴45年。1985年9月、プールの排水口に吸い込まれた中学2年女児を看取みとったことから事故予防に取り組み始めた。現在、緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。NPO法人Safe Kids Japan理事長。キッズデザイン賞副審査委員長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員も務める。

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