山中龍宏「子どもを守る」
医療・健康・介護のコラム
鼻に入れると穴が開き、飲み込むと出血多量で死亡も…ボタン電池の危険度

イラスト:高橋まや
乳幼児の誤飲に関して最も大切なことは、危険度が高い製品を知っておき、なぜ危険なのかを理解しておくことです。その代表が、「コイン形リチウム電池」です。飲んだ場合は超緊急事態と認識し、すぐに医療機関を受診する必要があります。「飲んだかもしれない」というときも同じです。以下は私の経験例です。
2歳2か月女児。テレビのリモコン装置をいたずらしているうちに出てきた電池を飲み込んでしまいました。この電池は、使いはじめて1週間の新しい電池でした。救急外来で撮ったレントゲン写真で、胃の中に電池を認めたため入院しました。すぐに手術室で全身麻酔をかけ、ファイバースコープを使い、1時間40分かけてやっと電池を取り出しました。こんなに時間がかかったのは、胃の中に食物が多くて手間取ったためです。入院中に下痢がひどくなり、結局、11日間入院しました。
誤飲の90%は5歳以下
一般に「ボタン電池」といわれるものには、「コイン形リチウム電池」と「ボタン形電池」があり、ボタン形電池には「アルカリ」「酸化銀」「空気亜鉛」の3種類があります。中でも、コイン形リチウム電池は電圧が高く、直径が20ミリ・メートルと大きいものが多いため、子どもが誤飲したときに危険性が高くなります。
日本中毒情報センターの受信報告(2014~18年)を見ると、毎年200件前後のボタン電池等の誤飲が発生しており、その90%は5歳以下となっています。発生数に大きな変化は見られません。
ボタン電池等の誤飲は重症例が多く、毎年、 小児科や小児外科の学会でたくさん症例が報告されています 。
重症になりやすいコイン形リチウム電池
1990年頃までは、径が小さいアルカリ電池が使われている場合が多く、乳幼児が飲み込んでも、そのまま胃の中に入り、多くは3日以内に便中に排せつされていました。電池が胃の中で移動する状況であれば、それほど危険性は高くありません。
ところが、91年から径が大きいコイン形リチウム電池が販売され、食道にひっかかるようになりました。食道壁の一か所に電池がとどまっていると、通電し、電気分解によって電池のマイナス極側にアルカリ性水溶液が発生します。これによって、食道粘膜の脂肪組織が変性し、「びらん」(ただれた状態)になってしまいます。
時には、鼻の穴にボタン電池を入れる子どももいます。この場合も、電池が一か所にとどまるため、鼻の粘膜にびらんができ、鼻中隔(鼻の左右を仕切る壁)が溶けてしまうこともあります。
治療が遅れるとのどや食道に重い後遺症
コイン形リチウム電池を飲み込んだ時、子どもの体の中でどういう変化が起こっているのか、外から見ることはできません。保護者に危険性を知ってもらうため、産業技術総合研究所で 動画 を作成しました。食道には狭くなっている部分が3か所あり、そこに電池が引っかかってしまうのです。動画では、「子どもの様子がおかしい、飲んだんじゃないか」と、お母さんがすぐに気づき、救急外来を受診していますが、誤飲したことに全く気づかない場合もあります。
電池が食道に引っかかったままだと、子どもは「何回も吐く」「よだれが多い」「やや元気がない」といった状態になり、保護者は心配になってクリニックを受診します。 嘔吐 下痢症がはやっている時期だと、ウイルス性胃腸炎と診断されます。保護者は、まさかボタン電池を飲んだとは思わず、医師も誤飲とは考えません。
そして、時間がたてばたつほど、食道壁のびらんが進み、そうなってしまうと、治療をしても、喉頭や食道に重い後遺症が残ります。最終的には、びらんが大動脈まで到達して、出血多量で死亡します。海外でも日本でも、死亡例が発生しています。
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