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「続・健康になりたきゃ武道を習え!」 山口博弥

医療・健康・介護のコラム

まさかの全日本2回戦負けに奮起 「極真精神」取り戻し、世界4位に

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世界大会準決勝で外国人選手と死闘を繰り広げる赤石さん

 「君は、もう現役を辞めた方がいい」

 2010年の第42回全日本空手道選手権大会で、優勝を期待されながら2回戦で若手選手に判定負けした赤石誠さん(現・極真会館総本部代官山道場責任者)は、試合後の控室で松井 (しょう)(けい) 館長に (しっ)(せき) された。

 「君はある程度は実績を出していたけど、試合内容が変わらない。総本部の指導員で責任ある立場なのに、こんな負け方をして……」

 そのことは自分もよく分かっていた。試合では思うように動けず、相手の激しい攻撃に押されてしまった。ふがいない自分があまりにショックで、「消え去りたい」と思った。

 でも、こんな惨めな負け方をしたまま、現役を引退するわけにはいかない。

 思わず、松井館長に言った。

 「(来年開催される)次の世界大会まで、あと1年間はやらせてください!」

 「それなら……」と、松井館長はこんな助言をくれた。

 「君は徹底的にやり込むしかないんだ。スクワット、腹筋、背筋、拳立てを毎日1000本ずつぐらいやりなさい」

ふがいない負けは精神力の差?

 赤石さんが負けた理由は、技術の低さやパワー不足のせいではなく、精神力の弱さ、と館長は判断したのだろう。だからこそ、原点に返って「極真精神」を取り戻すために、体を徹底的にいじめ抜いて「やり込む」よう指示したのではないだろうか。

 現代のアスリートは、昔の「根性論」的な練習ではなく、科学的なトレーニングを取り入れている。たとえばスクワットなら、自重(負荷が自分の体重のみ)で1000回繰り返すよりも、重いバーベルを担いで10回×4セットなど、休憩を挟みながらウェートを徐々に増やしていった方が、筋肉を大きくしたりパワーを付けたりすることができる。

肉体の限界で死力 最後に勝敗を決めるのは……

試合終了後、松井館長(右)から盾を手渡される

 しかし、極真空手の試合は、科学的・効率的な練習だけで結果が出るわけではない。もちろん、高い技術と体力・筋力、戦略的な頭脳は必要だが、それらにも増して精神的なタフさが欠かせない。フルコンタクトルール(直接打撃制)の試合では、一切の防具を身にまとわず、生身の肉体に素手で直接、突きを入れ、入れられ、蹴り、蹴られる。トーナメントを勝ち抜いて戦いを重ねれば重ねるほど、体は疲れと痛みでボロボロになり、肉体の限界ギリギリのところで死力を尽くす。最後の最後に勝敗を決めるのは、精神力の差であることも少なくないのだ(※)。

 赤石さん自身、それはよく理解していた。この時、29歳。世界大会は30歳で迎えることになる。「勝っても負けても、世界大会を最後に引退しよう」と決意した。大会が終わった翌日から毎日、朝6時半からランニングし、公園でスクワットや懸垂を行った。昼からは本部の事務作業と空手の指導をして、夜は選手としての空手の稽古。それ以外にも、指導や事務作業の合間に自身の稽古に励み、徹底して肉体と精神を鍛え、空手の技術を磨いた。

世界大会で4位入賞 日本人は8年ぶり

表彰式に臨む赤石さん(左から4番目)(いずれも赤石さん提供)

 こうして迎えた、4年に1回開催の「第10回オープントーナメント全世界空手道選手権大会」(2011年11月)。世界各国から選抜された192人が参加し、赤石さんは見事、4位に入賞した。日本人が世界大会で入賞したのは、2003年に木山 (ひとし) 選手(現・名古屋中央支部長)が優勝して以来、8年ぶりのことだった(2007年の第9回世界大会では優勝から7位までを外国勢が独占していた)。 

 試合後、赤石さんは松井館長から「頑張ったな。これで君は『一流』と言ってもいいんじゃないか」とお褒めの言葉をもらった。

 

 

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山口 博弥(やまぐち・ひろや) 読売新聞東京本社編集委員

 1962年福岡市出身。1987年読売新聞社入社、岐阜支局、地方部内信課、社会部、富山支局、医療部、同部次長、盛岡支局長、医療部長を経て、2018年6月から編集委員。同年9月から1年間、解説部長も兼務。医療部では胃がん、小児医療、精神医療、慢性疼痛、医療事故、高齢者の健康法、マインドフルネスなどを取材。趣味は武道と映画観賞。白髪が増えて老眼も進行したが、いまだにブルース・リーを目指している。

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