「死にたい」に寄り添うには…松本俊彦氏に聞く
インタビューズ
「死にたい」に寄り添うには(3)「生きてさえいれば、きっといいことがある」は、言っていいのか?
「死にたい」と言われた時、家族や友人はどう対応すればいいのでしょうか。死んでほしくないからこそ、励ますつもりで言った言葉や、正論だと思って伝えた言葉が、かえって相手の心を閉ざしてしまうこともあるのです。(山口博弥 編集委員)
聞くこと、否定しないこと
――もし、死にたい気持ちになった場合、それぞれ状況は異なるでしょうけど、一般的にはどうすればいいでしょうか。
いちばんいいのは、安心できる人、説教しない人に、話を聞いてもらうことだと思うんです。でも、なかなか人に言うのは大変ですよね。説教されても嫌だし、軽く流されても嫌だし。だから僕は、ノートに書くことを勧めたりします。あと、これはちょっとリスクを伴うんだけども、SNSの裏アカウントを作って、そこでつぶやいてもいいと思う。もちろん、「一緒に死にましょう」と誘われたり、犯罪に巻き込まれたりするリスクが皆無ではないんだけれども、多くの人たちがよくやっていることではありますよね。
ノートやSNSに思いを書くことで、いま死にたいと思っている自分を、ちょっと客観視できると思うんですよ。「死にたい」っていう思いにふたをして、こじれていくようなところもあるから、そうならないように自分の思いを書く。
でも、 いちばんいいのは、誰かとつながることです。
――著書では、「3人ぐらいに相談して」とありましたね。
僕の患者さんたちは、「相談したけど、誰も役に立たなかった」って言うんですよ。でも、よくよく聞いてみると、1人に相談して適切な対応をしてもらえないと、それでもうあきらめて相談しなくなっちゃう。でも、もう少し、ほかの人に相談することを試してほしい。「三人寄れば文殊の知恵」って言葉もあるぐらいだから。
ただ、SOSを出せない子たちにとって、何人もを相手に失敗を繰り返すのは、すごく大変なことなんですよ。僕自身、無理を言っていることは承知なんです。むしろ、健康的な人たちが、そういう人たちのサインに気づいて、「なんかあるんじゃない?」と言ってほしいな、と思うんですよね。
できれば、次に会う約束を
――やはり、心配している家族や仲のいい友達がどう対応するか、が大事ですね。
そうです。まず友達の場合、聞いてあげることと、否定しないことが大事です。死にたい理由を言ってくれる場合もあって、一緒に解決に向かって動いてあげたらいいんだけど、解決困難な問題も多いと思うんですよ。でも、それを解決しなきゃ、って思うから、死にたい人の相談は苦しい。
だから、「何もできないけど、聞くことはできるよ」っていうスタンスでいい。そばにいてくれて、否定されず、「ああ、あなたは今、死にたいくらいつらいんだね」と受け止めてくれた。それだけでも、救われると思います。
そして、できれば次に会う約束をしてほしい。「次の約束まで生きている」っていう時限的な契約を毎回、更新していく……みたいな関わり。それでいいと思うんです。
もう一つ、死にたいって思う人をサポートする人たちにも、サポーターが必要なんですよね。話を聞いてあげたあとに、「どうだろう、ちょっと今度さ、保健所とか精神保健福祉センターとかに行ってみない? もし何なら、私もついて行くよ」というふうに、身近な人が、より専門的な支援機関につなげるのを助ける役割をしてほしい。で、身近な人はどこかで卒業していって、専門職の支援者の方にゆだねていく。あるいは、関わり続けたとしても、「1人で背負う」という負担を回避する。そういうことが、すごく大事だと思うんですよね。
1人で抱えていると、自分がなんとかしなきゃ、助けてあげなきゃ、その人の問題を解決してあげなきゃ、と意気込んじゃって、それが本人にもプレッシャーになることがあるんですよね。だから、難しいことは専門家に任せて、自分は素人として、できることをすればいい。できるのは聞くことだけだ、っていうことです。
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