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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

[看取り犬・文福](3)90代男性、余命1週間での外出は暴挙? 奇跡?

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 さくらの里山科では、かつて、あるご入居者様がお亡くなりになる5日前、意識もない状態なのに外出させるという、特別養護老人ホームとしてはあり得ないことを実行したことがあります。これを暴挙と呼ぶか、奇跡と呼ぶか、人によって意見は異なると思いますが、私たちとしては、その方らしい最期を迎えるために精いっぱいのことをしたと自信をもっています。そして、そのあり得ないようなことを実現できた背景には、 (ぶん)(ぷく)()() り活動が大きく関わっていました。

元漁師 大好きな犬との暮らしに大喜び

 

[看取り犬「文福」](3)90代男性、余命1週間での外出は暴挙? 奇跡?

文福とのふれ合いを楽しむ入居者

 90代でご入居された鈴木吉弘さん(仮名)は、入居当初から体が弱っており、入退院を繰り返していました。犬が大好きで、当初は意識がはっきりされていましたので、犬と一緒に暮らせるようになり、大喜びしていました。特に文福のことはかわいがっていて、文福もしょっちゅう、鈴木さんのベッドに潜り込んでは甘えていました。

 鈴木さんは、地元の横須賀市内にある秋谷漁港(※プライバシー保護のため、地名は変えてあります)で長年漁師をしていました。たくましかったであろう漁師の面影はほとんど消えていましたが、まだ日焼けの黒さが残っている腕からは、かすかに潮の香りが感じられました。鈴木さんが、懐かしそうに語る漁師時代の思い出を聞くのを、職員たちは楽しみにしていました。

 「鈴木さんを秋谷漁港に連れて行ってあげたいね」と、職員たちはよく言っていましたが、残念ながら、それができる体調ではありませんでした。

 2年間ほどは、鈴木さんは入退院を繰り返しながらも、穏やかに暮らしていました。そんな体調ですから、外出行事や大きなイベントには参加できませんでしたが、犬たちと触れ合い、幸せに暮らしていました。

体調悪化 寝たきりで意識もほぼなく

 

 しかし、2年を過ぎた頃から、体調がさらに悪化し、寝たきりになってしまいます。肺炎をはじめ、いろいろな疾病にかかっていましたが、一言で言ってしまえば老衰です。 (えん)() 能力(食べ物を飲み込む力)も弱っており、ほとんど食事をとれなくなってしまいました。ミキサー食(ミキサーですりつぶした流動食です)を少し飲むことで、かろうじて命をつないでいる状況でしたが、そのミキサー食も、いつまで飲むことができるか危ぶまれました。寝たきりとなり、意識もほぼない (こん)(すい) 状態で過ごすようになり、ついには医師から、余命1週間と宣告されます。看取り介護が始まったのでした。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里 山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里 山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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3件 のコメント

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こういう看取りが増えて欲しい

なな

私も仕事で似たような経験をしました。 がんの余命告知を受け、冬を越すのは難しいと言われた50代の女性。 その人の最期の望みは「地元でお母ちゃんと...

私も仕事で似たような経験をしました。
がんの余命告知を受け、冬を越すのは難しいと言われた50代の女性。
その人の最期の望みは「地元でお母ちゃんと過ごしたい」
ただ、病状から一刻も早く帰らないと体力的に無理だと主治医から言われていました。
その後、帰省後の住居や新幹線との交渉を早急に手配。
住居は実家は戻る部屋がなく、実家近くに住む妹さんは昔ヤンチャだったその方とは住みたくないと。
そのため、地元でホスピスを探し、事情を伝え、臨時で入居会議を開いてもらいました。
そして、ホスピス無事入居。お母ちゃんとも再会できたそうです。

その後、冬を越せないと言われていたのに、再び夏を迎え
さらには、元気すぎるとホスピスを出されることに。
結局、病気の進行は抑えられず、地元に戻ってから2年後に亡くなったと伺いました。

環境は、人の生命力に大きく影響するのだと気付かされた出来事でした。

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願わくば‥

ひじさん

きっと体が動くなら 最後に好きなことをしたいと思う 誰かの助けでそれが叶うのなら ぜひお願いしたい

きっと体が動くなら
最後に好きなことをしたいと思う
誰かの助けでそれが叶うのなら
ぜひお願いしたい

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どの話も涙がでますね

茶釜のねこ

看取るほうも看取られるほうも、うれしくなるようなお話ですね。 介護の現場で働く皆様のお力があってこそですし、 改めて感謝の気持ちを送りたいです。...

看取るほうも看取られるほうも、うれしくなるようなお話ですね。
介護の現場で働く皆様のお力があってこそですし、
改めて感謝の気持ちを送りたいです。

犬も人間と同じ。家族以上の愛情をもって人に接している姿に
有難いな、と思います。

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