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産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」

医療・健康・介護のコラム

女性活用で課長に抜擢され、高ストレス状態に……上司と夫に何ができる?

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 39歳の中田由紀さん(仮名)はメーカー営業部第1課に勤務するワーキングウーマンです。会社の女性活用方針で、4月に係長から、課長代理を飛び越して課長に2階級昇進しました。彼女はストレスチェックを受けて、高ストレス状態と判定されました。そこで課長昇進ストレスへの対処法を知りたいと考えて産業医面談を受けました。産業医の私とのやり取りです。

女性活用で課長に抜擢され、高ストレス状態に……上司と夫に何ができる?

イラスト 赤田咲子

女性活用、2階級特進で課長に抜擢

私   :「高ストレス」と判定されたのですね。確かにストレス反応がでています。最近、ストレスになることがありましたか?

由紀さん:課長昇進です。それも課長代理を飛ばして。異例です。上司に、断りました。

私   :それで。

由紀さん:課長が、「実は」と言って経緯を説明してくれました。「女性活用の時代で中田さんは頑張り実績も残しているから、適任だろうという部長の考えから」と。

私   :評価されたのですね。

由紀さん:でも、1人でやってきた仕事が多かったんです。

私   :マネジメント経験はないのですか? それと、女性活用に意欲的な会社なのでしょうか?

部長に断りに行くと、「昇格しないと後輩が困るよ」

由紀さん:いいえ、わが社では女性の昇進は遅れています。女性のトップは本社の部長が1名だけで、課長も数名です。だから、「女性活用」をアピールしたいのでしょう。マネジメント経験は係長をしたので、ゼロではありませんが、部下は女性2人です。課長になると、部下10人、うち男性が7名ですから、男性をまとめられるかどうか自信がありません。それで部長にもう一度交渉に行きました。

私   :なるほど。

由紀さん:部長は、「君が昇格しないと、年次の都合上、ほかの女性が昇進できないよ。女性が活躍するために、しんどいと思うが引き受けてほしい」と説得されました。

私   :そうか。

由紀さん:私が昇進しないと、他の女性の昇進妨害になると言われれば、引き受けざるを得ませんでした。

私   :なるほど なるほど。

課長業務をどうする? 悩んで不眠がちに

由紀さん:異動しました。部の課長会(課長4名、部長、次長で構成)に出ましたが、女性は私1人。緊張しました。正直、内容も7割は、頭に入らない状態で、ただ、座っているだけです。

私   :針のムシロ?

由紀さん:そうですね。時間がないので、家でも引き継ぎの内容を勉強しました。

私   :家まで? 夫はどう思っていたかな。

由紀さん:「あまり、頑張りすぎないように」と言われました。でもしないと、わからないことが多いので。

私   :そうでしょう。

由紀さん:他課との交渉が難しいです。どう判断し、決めたら良いのかがわからない。

私   :新米だからね、部長に相談しなさいよ。

由紀さん:部長のサポートを受けています。何とかしたいのですが、まだまだで焦りますよ、正直。

私   :それがストレス。

由紀さん:引き受けた以上は仕方がないし。悩んでいます。不眠がちで。

私   :少し時間を置いて、冷静になってから、2人で検討しましょう。

由紀さん:わかりました。

女性活用の実績作りで昇進

人事部長:今回の人事はトップ判断でね。女性活用が業界で言われていて。わが社だけが、乗り遅れるわけにいかない。「至急、候補を決め、発令の用意をしなさい」と総務人事本部長(常務)から言われている。

営業部長:候補者は何名くらいかな。

課長(彼女の直属の上司):中田由紀さんだけではないでしょう。

人事部長:5名で、部長候補が1名、4名が課長候補ですよ。

営業部長:4人中の1人か。

人事部長:中田さんが昇進しないと、後輩の女性が活躍できないのよ。

営業部長:わかった。しかし女性は業務の方にやりがいがあり、役職は二の次だから。説得しかないよねぇ。

課長:私も説得してみます。

夫も驚いたが、家事の分担を約束

由紀さん:あなた、課長になったのよ。

夫   :エッ、君が課長!!

由紀さん:びっくりするでしょう。当然よね。係長から、すぐに課長だからね。

夫   :課長代理を飛ばした人事か。

由紀さん:2回説得されて、引き受けざるを得ない状況になったの。追い込まれた感じかな。部長に、「せめて、サポートはしっかりしてほしい」と条件を出した。

夫   :チャンスと思う? ただ家事、子育てもあるし。オーバーワークにならないかな?

由紀さん:家事・育児は2人でするのよ。引くに引けない。

夫   :わかる。住宅ローンにこどもの教育費もいるし。

由紀さん:協力してね、特に家事をね。

夫   :できる範囲でしますよ。

由紀さん:約束して。

夫   :します、しますよ。

由紀さん:チャンスはチャンスだけど……でも微妙。

夫   :無理しないようにね。

由紀さん:ありがとう。

夫   :僕の方が先に課長になっているから、アドバイスはできるかも。

友人の会社でも女性活用の人事

由紀さん:智子、聞いてよ。会社から急に課長になってと言われたの。私、マネジメント得意じゃないから悩んでいるの。どう思う、友人としては?

友人  :わかるよ。急に言われて、びっくりするよね。

由紀さん:自信がない。

友人  :実は……私の会社も急に女性活用になってね。3年先輩が課長に、と説得されているよ。

由紀さん:智子の会社もそうか。

友人  :逃げられないかもね。

由紀さん:逃げられないよ……部長、課長に何回も言われたから。

由紀さん:これからも話を聞いてよね。頼りにしてます!

部長のサポートを条件に引き受けた

私   :ストレスに、対応はしていますか。

由紀さん:大変、大変だ。

私   :初めての時はそうです。「場数、場慣れが大事」と言います。慣れもありますから。

由紀さん:そうか、そうなんだ。まだ、慣れていないですね。

私   :上司はサポートしてくれますか?

由紀さん:部長には「サポートだけはしてください」を条件に引き受けたので、わからないときは、直に、相談に行きます。

私   :さすがです。頑張ったよね。

由紀さん:不安でしたから、「せめてそれだけでも」と主張しました。

私   :昇任ストレスはあります。が、サポートをしてくれる上司がいる。夫の了解を取って、彼もそれなりに配慮してくれるので、適応しています。特に、問題はないと考えます。

由紀さん:先生にそう言っていただくと、安心します。

私   :これにてカウンセリングは落着、でなくって終了です。

企業サポートと配偶者の協力こそ

  抜擢(ばってき) 昇進事例です。今の時代の流れの一つでしょう。早めに、女性活用を打ち出し、着々と準備を進めた会社では問題はないでしょうが。しかし今回のケースのように時代に乗り遅れて、準備ができていない企業では、当事者のストレスは強いです。

 由紀さんは、上司サポートを条件に引き受け、夫の協力があったので、乗り切れた事例です。女性活用には企業の普段からの地道な体制作りが必要です。

最後に、「マコトの一言」で締めさせていただきます。

女性活用で課長に抜擢され、高ストレス状態に……上司と夫に何ができる?

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夏目誠(なつめ・まこと)
 精神科医、大阪樟蔭女子大名誉教授。長年にわたって企業の産業医として従業員の健康相談や復職支援に取り組み、メンタルヘルスの向上に取り組んでいる。日本産業ストレス学会前理事長。著書に「中高年に効く! メンタル防衛術」「『診断書』を読み解く力をつけろ」「『スマイル仮面』症候群」など。新著は企業の人事や産業医向けの「職場不適応のサイン」。ブログ「ストレス点数の夏目」はこちら

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