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医療・健康・介護のコラム

『令和の改新 日本列島再輝論』 辺見公雄著

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『令和の改新 日本列島再輝論』 辺見公雄著

 辺見先生の話は、よく脱線する。全国自治体病院協議会の前会長であり、現在は全国公私病院連盟の会長として、ここ数年、ほぼ月1回は記者会見などでお目にかかっているが、取材の本旨とは別に、辺見先生の「脱線話」を聞かせていただくのも実は個人的に楽しみにしている。

 戦時中の満州(現中国東北部)に生まれ母に背負われ帰国したという生い立ち、外科医として院長として地域医療に奮闘した兵庫県の赤穂市民病院のこと、日本の諸悪の根源は東京への一極集中だとして省庁などを全国に分散させる列島改革案……。記者会見の場では、時間の制約のために長々と脱線話を披露していただくわけにはいかない(本当はずっと聞いていたい)が、本書が出版されたおかげで、記事ではなかなか伝えることのできない辺見先生の語りを、多くの読者と共有できることができて、うれしく思う。

 第1章は、「令和の今、行政改革最高のチャンス」と題して、辺見先生の持論である東京一極集中解消策などが展開される。まず、司法改革のため「最高裁は霊場高野山、道場永平寺の近く」へ。中央省庁は、少なくとも46道府県に一つずつ分散させ、たとえば気象庁は沖縄へ、文部科学省は長野かまたは……。荒唐無稽と言うなかれ。本書では一つ一つの移転案にユニークな理由が説明されており、読者は、なるほどとうなずかされたり、にやりとさせられたりすることは間違いない。

 第2章「全員参加の健康づくり、病院づくり、街づくり」は、30歳代で外科医長として赴任し、現在は名誉院長を務める赤穂市民病院でのこと。途中、大学や民間病院への転職の話を断って、同病院一筋に歩んできた理由も明かされている。

 そして第3章は「日病協の結成と中医協への参加」。なかでも歯科をめぐる贈収賄事件をきっかけにした改革によって、初の病院団体推薦の委員として参加した中医協(中央社会保険医療協議会)での活躍は、水面下での駆け引きの話なども含めて興味深く読んだ。

 医師が都市部に集中し地方に少ない「医師の偏在」問題の是正は、医師の自律性だけに任せていては実現しない。とは言っても、医師にだけ地方で働くことを求めても、社会全体の東京一極集中がなくならない限り、なかなか進まないのが現実だろう。地域の発展、活性化こそが、医師の偏在を解消する切り札になる。日本列島再輝論は、地域そのものを輝かせるための、辺見先生からの熱いメッセージだ。

(幻冬舎 1900円、税別)

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