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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

職員家族の3段階先の知人感染でも出勤停止に 新型コロナで疲弊する介護現場

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職員家族の3段階先の知人感染でも出勤停止に 新型コロナで疲弊する介護現場

 新型コロナウイルスの感染拡大で、ついに緊急事態宣言が出されました。私たちが暮らす神奈川県も対象に入っています。地元の横須賀でも感染者が20人を超えました。この緊急事態に、多くの介護現場はかなり追い詰められていると思います。

 幸い、私が経営する特別養護老人ホームさくらの里山科ではまだ、ご入居者様や職員の感染は起きていませんが、すでに多大な影響を受けています。

職員の同居家族の職場同僚の配偶者が感染

 例えば、職員の同居家族の職場の同僚の配偶者が感染したというようなことが起きています。この場合、万が一の感染を予防するため、職員には休んでもらっています。その、同居家族の職場の同僚の方の検査結果が陰性と出るまで出勤停止です。もし検査結果が陽性だった場合は、職員の同居家族が検査を受けるでしょうから、その結果が出るまで出勤停止が続きます。もちろん、結果が陽性だったら、今度は職員が検査を受けることになりますから、その結果が出るまで、さらに出勤停止は長引きます。

 このようなケースが、すでに複数件起きています。私のホームでは、感染をできる限り防止するため、職員またはその同居家族から数えて3段階までの関係者が感染した場合は、出勤を停止することにしています。

 すなわち、職員の同居家族の知り合いの知り合いの知り合いが感染した場合は、職員は出勤停止となるわけです。3段階というのは、かなり遠い関係ですが、2段階だと、感染が広がっていた場合はあっという間に職員までつながってしまうと考えての措置です。

 今のところは、すべてのケースで、職員につながる前の段階で検査結果が陰性になり、職員は職場復帰できていますが、休みが1週間になったこともあります。

介護の質を保つぎりぎりの職員配置

 私のホームは、国が定める職員配置数基準の1.5倍以上の数の職員を標準配置していますが、それは、うちが基準とする介護の質を保つためのぎりぎりの人数です。日頃からぎりぎりの状態で勤務している状況で、職員の休みが相次げば、職員の負担は大きく増えます。職員の残業や休日出勤がじわじわと増えています。

 あるリーダーは、1人の職員が感染リスクのために休みになったのと同時に、もう一人の職員がインフルエンザにかかってしまったため、その穴埋めに7日間ぶっ続けで勤務してくれました。

精神的につらい、休日や夜間の突然の出勤

 まだ残業や休日出勤の数は、全体ではそれほど多くはないのですが、参ってしまうのは、上記のようなケースで職員が休むことは突然起きるということです。事前にそなえることができません。

 うちの夜勤時間帯は夜10時~翌朝7時なのですが(老人ホームでの一般的な夜勤時間はもっと長いのですが、うちは職員の負担減のため時間を短くしています)、夜8時を過ぎて、ユニットリーダーのもとに、その日の夜勤職員から、友人の子供が感染者と同じ職場だったという電話が入ったこともあります。その時リーダーは、9時から夕方6時までの勤務を終え、自宅に帰ったところだったのですが、すぐにホームにとんぼ返りして、夜勤を代わってくれました。

 はっきり言って、これはつらいです。休日でも夜間でも突然呼び出されるかもしれないと身構えていると、精神的に参ってしまいます。普段は毎晩お酒を飲んでいるのだけど、最近は我慢している、というような職員も多いです。本当に辛い状況で必死に頑張ってくれている職員たちに、私は申し訳ない気持ちでいっぱいです。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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