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医療・健康・介護のコラム

不妊治療は「不要不急」じゃない! 緊急事態宣言で深まる妊活者の苦悩

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 終息の時期が見いだせない コロナウイルス感染症。

 世界中が、このえたいの知れない未知のウイルスと、それが引き起こす未曽有の状況に戸惑い、その対応に追われています。むろん私もその一人で、3月、4月は研修や登壇、会議など予定がすべてキャンセルとなり、「日常」のもろさと「有り・難さ」をつくづく思い知らされました。

 近所の桜を見ながら散歩や談笑したり、飲食を楽しんだりするなんて、何てことない普通のことと思っていた自分を恥じ、それ自体、平和なこととして感謝すべきだったのだと再認識させられる今日この頃です。

学会が不妊治療延期の選択肢提示を推奨

不妊治療は「不要不急」じゃない! 緊急事態宣言で深まる妊活者の苦悩

 そのような中、不妊治療に関する情報として、4月1日には日本生殖医学会が「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する日本生殖医学会からの声明」( http://www.jsrm.or.jp/announce/187.pdf )を発表し、不妊治療延期の選択肢提示を推奨しました。それと前後して、各地の不妊治療施設もコロナ対策や今後の治療方針を打ち出しました。これにより、前回の記事以降、さらに当事者の困惑と混乱は広がりを見せています。私たちのもとにも様々な悩みの声が寄せられました。

 パートタイマーのTさんは、3月に凍結胚(受精卵を凍結したもの)の移植(子宮に戻して妊娠を待つこと)をする予定だったのですが、満員電車での通院が心配になり、移植を先に延ばしたそうです。しかし、予想に反して、新型コロナウイルスの感染拡大は収まるどころか、先が見えなくなってしまいました。「4月を過ぎればもう収まるだろうからって先生と話をしていたのに、もっと加速してしまって。もうちょっと待ったら落ち着くのか、それとも、すぐ移植したほうがいいのか、ものすごく迷っています。でも、もう時間がないし。ほんとにどうしよう……」

治療延期で助成金の年齢制限に

 Tさんが焦るもう一つの理由は、助成金の年齢制限です。今、体外受精や顕微授精などの高度生殖医療(ART)には、特定不妊治療助成制度による助成金が支給されています。治療を開始した年齢や、回数、夫婦の合算年収制限などの条件はあるのですが、Tさんは不妊治療のために、以前勤めていた会社を辞めてパートタイマーとなったため、その助成金の対象に当てはまっていたそうです。しかし、あと半年ほどで43歳になると年齢制限に引っかかり、助成金が受け取れなくなってしまうのです。

 「凍結胚移植の助成金は7万5000円。今の私たちには大きな金額です。最後の助成金だと思っていたのに、感染拡大が収まるまるまで待っていたら間に合うかどうか。今がピークなのか、それとも、もっとひどくなっていくのか、わからないからつらい」

国が迅速対応 助成金の年齢要件を緩和

 こうした悩みを持つ人のために、今回、国は大変迅速な対応をとってくれました。それは「助成金の年齢制限の一時的な延期」です。4月9日に厚生労働省から「新型コロナウイルスの感染拡大に伴い令和2年度における「『不妊に悩む方への特定治療支援事業』の取扱いを変更しました」という発表がなされました。助成金に関して「新型コロナウイルス感染防止の観点から一定期間治療を延期した場合、時限的に、年齢要件を緩和することになったのです。治療期間初日の妻の年齢が「43歳未満」から、「44歳未満」となりました。(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10762.html)ちょうどFineからも要望や問い合わせをしていた最中の非常に迅速な対応は素晴らしく、Tさんのように今まさに年齢制限のギリギリのところで頑張っている方にとって朗報で、助成金期限の焦りに対する安心材料の一つになったといえるでしょう。

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松本 亜樹子(まつもと・あきこ)
NPO法人Fineファウンダー・理事/国際コーチング連盟マスター認定コーチ

松本亜樹子(まつもと あきこ)

 長崎市生まれ。不妊経験をきっかけとしてNPO法人Fine(~現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会~)を立ち上げ、不妊の環境向上等の自助活動を行なっている。自身は法人の事業に従事しながら、人材育成トレーナー(米国Gallup社認定ストレングス・コーチ、アンガーマネジメントコンサルタント等)、研修講師として活動している。著書に『不妊治療のやめどき』(WAVE出版)など。
Official site:http://coacham.biz/

野曽原 誉枝(のそはら・やすえ)
NPO法人Fine理事長

 福島県郡山市出身。NECに管理職として勤務しながら6年の不妊治療を経て男児を出産。2013年からNPO法人Fineに参画。14年9月に同法人理事、22年9月に理事長に就任。自らの不妊治療と仕事の両立の実体験をもとに、企業の従業員向け講演や、自治体向けの啓発活動、プレコンセプションケア推進に力を入れている。自身は、法人の事業に従事しながら、産後ドゥーラとして産後ケア活動をしている。

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