文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

本ヨミドク堂

医療・健康・介護のコラム

『成年後見の社会学』 税所真也著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

増える第三者の成年後見人、専門職が大半

『成年後見の社会学』 税所真也著

勁草書房提供

 判断能力が不十分とされた個人と社会がどのように向き合っていくのか。この問題意識に導かれ、年々増加傾向にある成年後見制度がどのように利用されているのかを、丹念なフィールドワークを通して考察した。

 考察を通して浮かび上がってくるのは、我々が生きる社会における家族や人間、組織のありようとかかわりようだ。読むうちに、容赦なく進む高齢化によって、我々の社会が大きく変わりつつあることに気づかされる。著者が「成年後見制度を社会学で扱った最初の本」と位置づけるゆえんだ。

 成年後見制度の利用者は2018年末時点で合計約21万8000人。認知症の高齢者や知的障害者、精神障害者ら、判断能力が不十分とされる人を対象に家庭裁判所への申し立てで選ばれた専門家らが、本人にかわって財産管理や生活にかかわる契約を結ぶ法定後見制度が9割、判断能力が低下する前に後見人となってくれる人を自分で選び、将来に備える任意後見制度が残り1割を占める。

 成年後見制度は、時間、費用のコストが多大で、社会的な偏見を伴うと批判された禁治産宣告、準禁治産宣告の旧制度にかわり、介護保険制度と同じ2000年に誕生した。子供や家族によって家庭内で担われていた介護を社会全体で担おうという「介護の社会化」にならう形で、介護対象となる本人や親族による意思決定が難しい場合、社会で担うことのできる「成年後見の社会化」が目指された。

 親族がいない場合は病院の手続きや介護事業者等の契約は第三者の成年後見人が行うことになる。制度導入以降、親族が後見人を務めるケースは減り、第三者の後見人が約8割にまでに増え、その約9割が司法書士や弁護士、社会福祉士、行政書士といった専門職という。

家族機能崩壊で、困難な対応迫られる福祉現場

税所氏作成

税所氏作成

 親族ではなく第三者が後見人を務めるのは、どんなケースか。同書は、専門誌の掲載事例の分析や、第三者の割合が全国的にみて高い岡山県での市町村や専門職ネットワーク組織「岡山高齢者・障がい者権利擁護ネットワーク懇談会」の状況をみている。親族がいない、家庭や親族の関係が悪化している、障害への対応などから専門家の対応が必要、本人が第三者の後見人を望んでいるなど、高齢化が進み単身世帯が増え、家族の規範も変化するなか、問題も複雑化している。岡山県では、専門職ネットワークの支援によって、市町村長の申し立てが他の地域に比べて積極的に行われていた。

 判断力の低下した本人の周囲で頼るべきはだれなのか、福祉の現場では模索が続いている。都内の自治体で約10年にわたって成年後見制度の実務にかかわってきた職員が担当した約60件の多くは、親族がいなかったり、親族との関係が希薄だったりする人が、高齢化や病気・けがによって在宅で暮らせなくなり、成年後見人が必要となったケース。親族に連絡を取っても協力が得られなかったり、訪問販売の詐欺的商法で多額の金銭を払わされているのに被害の認識がなかったりといった困難な事例も。

 同書を読んだ感想について、男性職員は「昨今の家族機能の崩壊で、家族という情愛ある血縁の集合から個としての人間存在に移行しつつある。現場ではいまだに、(本人と親しいか疎遠かを問わず)親族の言質をよりどころにする傾向があるが、今後は第三者の後見人とどう連携するかも重要になってくる。手術や輸血など本人の承諾のみが有効とされる一身専属的な事項でも、第三者である後見人が、本人の真意をあらかじめ把握していた場合には、本人の意思を代弁・伝達できるのではないか、あるいは、本人の人生やその人生観や世界観を踏まえて、本人の意思を推認し代弁することが、無縁社会の進行で認められるようになるのではないか、などのヒントがあった」と話す。

税所氏作成

税所氏作成

 重度知的障害者の入所施設での介護・介助実習をきっかけに、「閉鎖的な空間でひそやかに行われてきた意思決定を公共空間の場へとつなぐ可能性」をもちうる成年後見制度の研究に取り組むようになったという著者は、制度の現状を「使わずに済ませたい人々と、なるべく制度を利用してもらいたい社会との間で、緊張関係をもちながらつねに揺れ動いている」ととらえる。同書で紹介されている様々な事例を読んでいくと、制度とその運用は、住み慣れた社会で人々が心安らかに老いていくための不可欠なセーフティーネットであり、年金や介護保険といった他の社会保障の仕組みとともに日々、改善がはかられなければならないことが強く印象づけられる。

 (勁草書房 5500円、税別)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

本ヨミドク堂

本ヨミドク堂
ヨミドクター編集室が注目する新刊書を紹介します。医療、健康、介護、福祉関連の書籍を幅広く取り上げていきます。

本ヨミドク堂の一覧を見る

最新記事