40代から備えよう「老後のお金」 楢戸ひかる
医療・健康・介護のコラム
「60歳を過ぎたら起業せよ!」と元厚労官僚が勧めるワケ…公的年金でトクする方法
障害(児)者と高齢者の「執事役」をめざしている「 ひつじ企画 」という会社があります。代表取締役の宇野裕さんは、東大を卒業後、厚生労働省で社会保障政策に関わってきた公的年金のプロです。そんな宇野さんが、「60歳を過ぎたら直ちに起業せよ!」と言います。なぜでしょう? お話をお聞きしました。
NPOでなく「会社」を作った理由
宇野さんは、定年後、奥様と二人で会社を作りました。「定年になったら、常勤の仕事は辞めると決めていました。次男に重い障害があるからです。彼はデイサービスなどを利用して在宅で暮らしていますが、医療的ケアが必要で、いまや最大の楽しみは入浴です。妻一人では抱えられない体重なので、夫婦二人がかりで面倒を見ないと『共倒れ』になってしまうと感じていました」(宇野さん)
株式会社「ひつじ企画」では、車いす用のグッズ販売や障害者向けのイベント、福祉サービス事業所へのコンサルティングなどをしています。事業内容からすればNPOっぽいのに、株式会社にしたのは、「株式会社の方が、簡単に設立できるからです」と言います。
NPO法人として認めてもらうには、一定の活動実績があり、運営に地域住民の参画を得る必要もあります。株式会社なら資本金さえ準備すればいつでも設立できます。
会社を作ると決めてみると「社会保険制度を、お得に利用できることがわかりました」と言います。宇野さんは、ひつじ企画の経営の他、非常勤の仕事もしているので、収入源が混在しています。ひつじ企画の役員報酬は「お伝えするのが恥ずかしい金額」とのことですが、会社が加入する健康保険の保険料は、事業主負担分を入れても、会社ができるまで区に払っていた国民健康保険の保険料より少なくなったそうです。「国民健康保険の保険料は、全ての所得を合算して割り出されますが、健康保険の保険料は役員報酬から算出される『標準報酬月額』にしかかからないからです。法律上、加入制度の割り振りは会社勤めの立場(役員も含む)の方が優先しますから、課税逃れでもなんでもありません。」(宇野さん)。こんなふうに、社会保険の仕組みを知っているとお得になることは、意外とあるのだそうです。
公的年金を少しでも増やす裏ワザ
年金の受給期間を後ろ倒しにする繰り下げ受給を選択することで、 受給額は最大42%増えることをご紹介しました 。宇野さんは、さらなる工夫として、二つの方法があると言います。「定年(60歳)で会社を辞めた場合、大卒ならば基礎年金の加入期間は38年以下のことも多く、標準期間(40年)を満たしていません。その場合は、定年後に国民年金に高齢任意加入することで満額の老齢基礎年金を受け取ることができます。
もっと有利なのは、厚生年金に加入し、『経過的加算』の権利を獲得することです。そうすれば、基礎年金に加入したのと同じ効果が得られるうえに、報酬比例部分の年金も増えます。非常勤などの理由で厚生年金に入ることができないぐらいなら、厚生年金に強制加入となる法人を起業して、厚生年金に加入することも一つの手ではないでしょうか。宇野さんが示してくれた試算例は、下記の通りです。
※経過的加算 国民年金の加入期間(20~60歳まで)以外の厚生年金期間(20歳未満または60歳以上)で、加入した厚生年金期間部分が基礎年金加入相当として加算されること。ただし、基礎年金の加入期間と合わせて40年になるまで。
仮に月給30万円とし、62~65歳までの3年間、「国民年金の高齢任意加入」と「起業して厚生年金を支払う場合」、それぞれの保険料と、もらえる年金の上乗せ分を表にしてみました。一見すると保険料が安いので国民年金の方が得のように見えますが、厚生年金だと保険料は約3.3倍になるものの、人生100年時代、もらえる年金は、およそ倍になります。長生きリスク(自分が長生きしてしまう可能性)を、どう考えるかは人それぞれで、「結論」は違ってくるでしょう。ただ、長い目で見てみると、こういった選択肢があることは、知っておいて損はありません。
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