ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
[看取り犬・文福](2)犬は人の死を予測できる? 亡くなる前、ベッドで顔を見つめ…
文福 (写真)が、ご入居者さまを 看取 る活動をしていることに私たちが気づいたのは、文福が暮らすユニットで、確か3人目のご入居者さまが逝去された時のことです。
80歳代の女性、井上ヤスさん(仮名)は、さくらの里山科の開設まもない、2012年の夏に入居されました。犬が大好きで、犬ユニットへの入居を希望されたのです。
あきらめていた犬との暮らしが実現
ちなみに、うちのホームの犬・猫ユニットのご入居者さまは二つのタイプがおります。一つは、現在ご自分が飼われている愛犬、愛猫を連れて一緒に入居したいという方です。もう1つは、犬・猫が大好きで、長年飼っていたのだけれど、高齢になってからは飼うのをあきらめていた。だから、さくらの里山科で、もう一度、犬・猫と一緒に暮らしたい、という方です。どちらも犬・猫が大好き、という点は共通しています。
井上さんは後者のタイプでした。子供の頃から何十年もずっと犬を飼い続けていたのですが、70歳代で最後に飼っていた犬が死んだ時、新しい犬を迎えるのはあきらめたそうです。これはよくあることです。自分自身がある程度の高齢になってから犬・猫を飼い始めると、自分に何かあった際に路頭に迷わせてしまうことを心配して、飼うのをあきらめるのです。今の日本社会は、高齢者が犬・猫を飼うには難しい状況なのです。
大好きな犬との暮らしを10年以上あきらめていた井上さんは、さくらの里山科で再び犬と一緒に暮らせるようになり、大喜びしていました。とってもイキイキしていました。拘縮という高齢者に多い病気のため、腕の関節があまり動かなくなっていたのですが、それがかなり回復しました。文福たちをなでていることが最高のリハビリになったのです。
入居者が亡くなる2日前 部屋の前でうなだれる文福
見違えるように元気になった井上さんですが、残念ながら加齢により弱っていく自然の摂理にはかなわず、徐々に体は衰えていき、最期は老衰で亡くなりました。
亡くなる2日前、文福が井上さんの部屋の扉の前に座って、うなだれていました。文福は自分で扉を開けられますし、普段は自由気ままにいろいろなご入居者さまのお部屋に出入りしているのですが、この時は決して、井上さんのお部屋に入ろうとしませんでした。
私がユニットに遊びに、いえ、見回りに行った際も、いつもなら文福は私のところに駆け寄って、じゃれついてくるのに、その時だけは扉の前から動きませんでした。何かを訴えかけるような目で見つめてくるだけでした。
文福はその日、夜寝るためにケージに入るまで、扉の前から動きませんでした。じっとうなだれたままでした。
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我が家の愛猫でさえ、体調がすぐれない時は寄り添ってくれますから、
犬はもっと感覚が鋭いのではないでしょうか。
文福くんは自らの意思で看取りをしてくれていると思います。
彼の生来の資質と環境でしょう。
この素晴らしい活動が一日でも長く続いてくれることを願います。
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