文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

[看取り犬・文福](2)犬は人の死を予測できる? 亡くなる前、ベッドで顔を見つめ… 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

突然死以外は必ず行う文福の看取り活動

[看取り犬・文福](2)犬は人の死を予測できる? 亡くなる前、ベッドで顔を見つめ… 

入居者のベッドから片時も離れない、文福の看取り活動

 翌日の朝、文福はそっと扉を開けると、井上さんのお部屋に入っていき、ベッドの脇に座りました。そして、井上さんの顔をじっと見つめていました。

 この段階で、ユニットのリーダーの坂田(仮名)は、文福が井上さんの死が近いことを察知して、寄り添おうとしているのかもしれないと推測していました。そして文福の行動を注意深く見守っていました。坂田が見守っている間、文福は片時もベッドの脇を離れなかったそうです。離れるのはご飯を食べたり、水を飲んだりする時だけでした。また、逆にベッドに上がることもしませんでした。普段なら好き勝手にご入居者さまのベッドにのって、寝ているご入居者さまに甘えるのに。

 そして、さらに翌日、文福は静かにベッドに上がると、井上さんに寄り添ったのです。寄り添って、ひたむきに井上さんの顔を見つめていました。それから数時間後、井上さんは穏やかに息を引き取りました。文福とご家族に看取られて。文福は最期の瞬間まで井上さんに寄り添っていました。

 これが文福の看取り活動です。文福はこの後も、ご入居者さまが亡くなる際には、必ずこの看取り活動を行っていました。心筋梗塞で突然亡くなってしまった場合だけは、看取り活動を行いませんでしたが、病気や老衰で、ろうそくの炎が消えるように亡くなっていく場合には、必ず看取っていました。

科学的な根拠はないが、匂いで?

 文福の看取り活動は、もちろん科学的には証明されていません。拙著「看取り犬・文福の奇跡」において、獣医学博士であり、動物行動学の専門家である北里大学客員教授の (いり)(まじり)()() 先生に解説(寄稿)を書いていただいています。文福の看取り活動に対する専門家の意見をうかがいたかったのですが、入交先生からは、犬が人の死を予測できるか、ということに関する研究は一切見つからなかったとの回答でした。

 というわけで、科学的根拠はないのですが、拙著を読んでくださった療養病棟(老人病院)のドクターが、「文福君の看取り活動はあり得ることだと思います」というお便りを下さいました。

 その先生は、ご自身も、高齢者が老衰で亡くなる前に、匂いでわかることがあるそうです。さらには、看護師さんの中には、より高い確率でわかる人がいるそうです。だから、嗅覚の優れた犬が、ピンポイントで予測をしても不思議ではないとおっしゃっていました。

 そうだとしても、現在のところ、文福の看取り活動を科学的に説明することはできません。私がここで書いていることは、単に私たちが体験した事実をそのまま書いているだけです。科学的根拠はありません。しかし、私たちはこれまでの体験から、文福はご入居者さまが逝去されるのを予測し、寄り添って看取っているのだと確信しています。(若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」施設長)

2 / 2

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

wakayama_michihiko_bunpuku_200-200

若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 の一覧を見る

4件 のコメント

コメントを書く

素敵な、素晴らしいギフト

TAMAKO

我が家の愛猫でさえ、体調がすぐれない時は寄り添ってくれますから、 犬はもっと感覚が鋭いのではないでしょうか。 文福くんは自らの意思で看取りをして...

我が家の愛猫でさえ、体調がすぐれない時は寄り添ってくれますから、
犬はもっと感覚が鋭いのではないでしょうか。
文福くんは自らの意思で看取りをしてくれていると思います。
彼の生来の資質と環境でしょう。
この素晴らしい活動が一日でも長く続いてくれることを願います。

つづきを読む

違反報告

特別な嗅覚

りんりん

30年前ですが、祖父が85歳の時に体調不良で入院し、病院の介助員の方が、部屋の外で親族に「お気を悪くなさらないで聞いてください。お爺さんはもう、...

30年前ですが、祖父が85歳の時に体調不良で入院し、病院の介助員の方が、部屋の外で親族に「お気を悪くなさらないで聞いてください。お爺さんはもう、一週間もちませんよ、私は長年この仕事をしてきたので、死期の迫った方々は特別なニオイでわかるのです。葬儀手配や礼服の事もあるでしょうから今のうちにご準備なさったほうがいいですよ。」と言いました。そしてその通り5日で旅立ちました。人間でもニオイでわかるのだから、人間より何倍も嗅覚の鋭い犬ならば、きっと特別なニオイを感じとっているのだろうと思いました。

つづきを読む

違反報告

ワンちゃんの素晴しい能力を知って欲しい!

Coco*Daisy*

私はココとデイジーをアダプションで家族として迎えて4年になります。ここに書かれている事が真実だと知っています。私達の体調の変化も理解していますし...

私はココとデイジーをアダプションで家族として迎えて4年になります。ここに書かれている事が真実だと知っています。私達の体調の変化も理解していますし、言葉もかなり理解しています。パートナーが何かの菌に侵されて嘔吐が続いた時に片時も離れずベットの傍に居ましたし、私が膝を怪我した時も舐めて直そうとしてくれたり...精神的な事でも何かを察知してずっと見守ってくれたりします。ある日、子供達といつも行くマーケット(アメリカではサービスドックの場合は何処でも連れて行けます)で足を止めて話し始めた女性が「私は子供(犬)に2度も命を救われたの!2度も癌を見つけてくれたのョ~!」と泣きそうな顔で話してくれました。大変驚きましたが、犬の嗅覚は人間の数倍も強いのでキッとそれで分かったのだろうネ~とパートナーと話し合ったのです。こんなに高齢者に寄り添った施設があるのですね...私も最期まで*Quality of life*を貫きたいので、ワンちゃんと一緒に入所できるこんな施設で子供達に看取られながら穏やかに逝きたいですね!

つづきを読む

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、読売新聞オンライン、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事