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医療・健康・介護のコラム

感染症? 足が真っ赤に腫れて痛い!

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 新型コロナウイルスの影響により、無観客で行われた大相撲春場所では、新たな大関が生まれましたね。朝乃山関にはけがをせず、活躍してほしいと思います。また東京オリンピック・パラリンピックの延期が決定しました。国内外で感染者数が増えていますが、これ以上、感染が拡大しないことを祈るばかりです。そのためにも、一人ひとりが正確な情報に留意し、常に冷静な行動を心掛けていただきたいと思います。さて、今回はお相撲さん、つまり力士のケースです。力士は普段から 裸足(はだし) で、土の上で稽古を行います。当たり前ですが、時に足から細菌が入り、感染症を起こすことがあります。

 23歳のZさんは15歳で相撲部屋に入門し、厳しい稽古の毎日を送っています。ある日、稽古を終えたとき、右の 下腿(かたい) 周囲が少し赤くなり、若干の痛みも感じました。それでも、特に気にせず日々の稽古を続けていたところ、赤みは下腿全体に広がり、痛みもひどくなっていきました。熱も出るようになったことで、親方に「医師に診てもらってこい」と言われ、病院を受診しました。

蜂窩織炎とは

 けがをした後に、傷口から細菌が入り、 化膿(かのう) した経験を持つ人は多いと思います。最近の都会暮らしの子供には、こういった経験が少ないかもしれません。

 実は、裸足で日々、激しい稽古をしている力士の場合、けがとは認識されないような小さな傷から細菌が侵入し、皮膚のバリアを破って、感染症を起こすことがよくあります。

 皮膚や皮下脂肪層に細菌感染したものを、蜂窩織炎(ほうかしきえん)と呼びます。採血をすると、白血球やCRP(炎症を表す数値)の値が上昇しますが、蜂窩織炎の特別な検査はありません。

抗生物質で治療

 蜂窩織炎では、溶連菌とブドウ球菌が原因となっているケースが多いため、これらに有効な抗生物質が投与されます。内服で十分な改善がない場合、もしくは症状がひどい場合には点滴で投与します。また、患部への負担をかけすぎないよう活動量を減らし、炎症を落ち着かせることも大切です。

 勘違いされていることがありますが、細菌とウイルスは大きく異なります。細菌に有効な抗生物質はウイルスには効きません。いわゆる「風邪」はウイルス感染なので、抗生物質で熱が下がるわけではありません。蜂窩織炎は細菌感染なので、抗生物質が有効です。

 それでは、Zさんの経過です。

 1日2回、朝と夕に抗生剤の点滴のため病院に通い、同時に消炎鎮痛剤の内服も行いました。日に日に症状は改善し、1週間後には赤みも腫れもほぼ引いていくと同時に、歩行時の痛みも消失していました。

何度も繰り返すことも

 力士の場合、仕方ないことですが、土の上で稽古を行う以上、蜂窩織炎を発症するリスクは高いと言わざるを得ません。一度治っても再発しやすくなります。稽古のあとは足の清潔には気を付けてもらいたいですね。また、運動会では裸足で走る人を見かけます。と言いますか、私も中学生の頃、裸足で走る方が速いと思って靴を脱いで走っていた一人でした。速くなるかどうかはさておき、土の上では足の裏に傷がつくことも考えておく必要がありますね。(大関信武 整形外科医)

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大関 信武(おおぜき のぶたけ)

 整形外科専門医・博士(医学)、読売巨人軍チームドクター、日本スポーツ医学検定機構代表理事、日本スポーツ協会公認スポーツドクター

 1976年大阪府生まれ、2002年滋賀医科大学卒業、14年横浜市立大学大学院修了。15年より東京医科歯科大学勤務。野球、空手、ラグビーを経験。スポーツ指導者などへのスポーツ医学知識の普及を目指して「スポーツ医学検定」(春、秋)を運営している。東京2020オリンピック・パラリンピックでは選手村総合診療所整形外科ドクター。

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