鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」
医療・健康・介護のコラム
登山で倒れた夫が脳死…臓器提供の話に取り乱す両親 しかし、妻は…
「家族内で誰の意見が重視されやすいか」を察する
代理意思決定者になる人は、 「患者がこの状況下で何を望むか」を考えるのであり、「私が何を望むか」ではないのです。 しかし、厳しい状況に突然立たされれば、冷静に判断していくことは至難のことと思われます。その時こそ、専門家が考えるべき道筋をわかりやすく示し、共に考えていくアプローチが求められます。
このケースのような局面では、今まで家族がどのような関係性だったのかも浮き彫りになります。つまり、何らかの重大な意思決定をする時、「家族内で誰の意見が重視されやすいか」など、その家族のコミュニケーションのスタイルです。妻、両親と医療者の話し合いの際に、その一端を垣間見ることができます。2年目だった看護師もそのことを察知し、妻が話をしたいのに話せないのではないかと思い、彼女の意向をたずねています。
こうした場合、患者の臓器提供についての意向を知る手がかりがないかを探った上で、家族一人ひとりが臓器提供に関する考えを、言葉で表現できる場を作ることが大切です。ケース・バイ・ケースですが、特にこのケースでは、一人ひとり、個別に時間をつくって考えを伝えられる場が必要であったと思います。
対立があることを見えるようにする
次は、それを互いにどう伝え合うかです。いくつかの方法があると思います。一堂に会して話し合いをする、あるいは、妻の考えを看護師が両親に伝えたうえで、看護師も同席した話し合いを行う、などです。妻がどのような形を望むかを聞きながら、決めていくことが大切です。
家族みんなで話し合う時、まず重要なのは、その場にいる家族すべてが自分の思いを安心して話せるように配慮すること、そして「患者はどんな考えを持っているのだろうか」「患者はこの状況下で何を望むだろうか」と、患者を主語として考えられるよう、進めることです。感情的になったり、脱線したりすることもあるでしょう。
意見が異なる場合、どちらも同時に採用することはできません。対立を避け、見ないようにするのではなく、対立があることをむしろ見えるようにすることが重要だと思います。きれいな形の合意を目指すのではなく、たとえ異なる考えを受け入れることが難しくても、お互いに、 患者のことを大切に思っている気持ち に変わりはないことが理解できるような話し合いをもつことです。
悲嘆のプロセスにも
この看護師は、「臓器移植をするためには、『1週間、様子をみましょう』とは言えません。家族にとっては、突然、回復困難になった家族を目の前にした激しい動揺の中で、すぐに決断を迫られるのです。だからこそ、患者を大切に思う家族のすべてが、自分の思いを伝えられる機会をつくることが必要で、それは、大切な人を失うことを受け入れる『悲嘆のプロセス』にも影響してくる」と話しています。(鶴若麻理 聖路加国際大准教授)
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かな
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ギャップ
りん
>特にこのケースでは、一人ひとり、個別に時間をつくって考えを伝えられる場が必要であったと思います。 そのための時間や対応するするスタッフを用意す...
>特にこのケースでは、一人ひとり、個別に時間をつくって考えを伝えられる場が必要であったと思います。
そのための時間や対応するするスタッフを用意するのが、臨床現場では本当に困難だったりします。やるべきこと、やりたいこと、と、できることのギャップに、日々悩まされています。
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