産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
五月病、今は大学生より新入社員に注意……生活リズムの乱れと会社になじめず
学生時代の生活リズムが変わらず遅刻
23歳の山田太郎さん(仮名)は大学卒業後、第1志望の大手食品会社(本社は東京)に就職。彼は京都生まれ京都育ち、裕福な家庭で、過保護に育てられたようです。新入社員研修時に、学生時代との違いに戸惑いました。落ちこぼれ寸前の状態でした。研修明けの5月後半に営業部に配属。仕事が期待していたものとは違い幻滅感を味わいます。仕事への意欲は低下。さらには学生時代から夜更かしが改まらず、生活リズムも乱れがち。会社へ行くのが、うっとうしくなり、遅刻が増えました。
一人暮らしでつい飲みすぎ
心配した上司の会田営業第一課長(仮名)が声をかけて、面談しました。
会田課長:山田君、元気がないね。遅刻も増えているが、何か心配事があるのですか?
山田さん:すいません。初めての会社員生活、一人暮らしなので。ついお酒の量が増えました。
会田課長:初めての会社員生活、一人暮らし……初めてづくしだね。大変だ。
山田さん:慣れていくしかないのでしょうね。
会田課長:毎日、1人で飲酒は良くないね。初めてづくしに強い産業医がいるので、相談に行ったらどうですか。
山田さん:行きます。
山田さんが面談にやってきました。
私 :産業医の夏目です。よろしく。
山田さん:課長に言われて来ました。
私 :遅刻が多いようですが?
山田さん:飲み過ぎで。単身生活ですから、起こしてくれる人がいません。目覚まし時計もつい途中で切ってしまって遅刻してしまうんです。
私 :どのくらい、飲むの?
山田さん:日本酒で4、5合くらいかな。毎日飲んでいます。
私 :毎日の飲酒はダメ。まずは「酒休2日制」で行きましょう。飲み過ぎで、朝起きられないのを防止しましょう。
山田さん:帰っても誰もいないので……つい飲んでしまって。2日制、実行します。
目標喪失で虚脱状態に
私 :生活のリズムが乱れていますね。対策ですが、朝の起床時間を一定にしましょう。次に、起きたらすぐに着替え、外に出て太陽の光を浴びてください。起床時間が定まれば、眠る時間が決まります。生活リズムの基本ですから、明日から始めてください。
山田さん:先生、就活の会社見学会で聞いた内容といまの職場には、大きな違いがあって幻滅しています。
私 :わかります。見学会などでは、会社の良い面しか言いませんから。多かれ少なかれ、幻滅を抱く人が多いですね。
山田さん:そういうものですか。
私 :仕事は慣れるのがキモです。また、数をこなすうちに、「こういうものか」と納得していく人が多いですよ。
山田さん:そうですか。しかし、今、あまりエネルギーとパワーが出ません。
私 :なるほど。「就活」はエネルギーとパワーを使うからね。専門的に「目標喪失」と言います。入社できて目標を達成したわけですから、虚脱感が出ます。その場合には、エネルギーとパワーがたまってきますので、安心してね。
山田さん:時間がたてば、やる気が出ますか。
私 :そうです。
山田さん:私は病気でしょうか?
「五月病」は一時的なもの
私 :「五月病」と呼ばれています。病気と言うよりは、環境変化への一過性の「適応期間」と言えます。
山田さん:学生時代は良かったなぁ。
私 :わかります。学生生活と職場の違いを表にまとめてみました。2人で確認しましょう。
学生生活と職場との違い
山田さん:(表をお互いに見ながら)会社には自由がない。
私 :給料をもらう立場と、授業料を払う立場では180度、立場が違う。しっかり理解してくださいね。また仕事上のノルマもあり、結果が求められますよ。お金を稼ぐのは大変なことですよ。
山田さん:頭でわかりますが、体が受け入れてくれない。
私 :はじめは誰でも、そうですよ。
山田さん:そうですか。
私 :まず、リズムを整えましょう。それが第一歩 。朝の起床時間を一定にします。それが、実行できているかどうかも知りたいので、再度、来てください。
山田さん:明日の朝から、そうします。
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