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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦 

医療・健康・介護のコラム

[看取り犬・文福](1)重度認知症の高齢者が劇的回復 元保護犬の特別な力

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入居者にかわいがられ、笑顔?の文福

文福を探して歩き回り、息子の名前や顔を思い出した

 入居から2週間後には、佐藤さんは「ポチや、ポチや」と、文福を探して自ら歩き回るようになりました。文福は「ポチ」と呼ばれても、大喜びで佐藤さんのもとに駆けてきて、バフッと抱きついていました。3週間後には、佐藤さんは「文福」としっかり名前を認識して呼びかけられるようになりました。そして1か月後、奇跡が起きます。訪れた息子さんのことがわかったのです。息子さんの名前も顔も思い出したのです。一時的にではありますが、認知症が大幅に回復したのです。

 おそらく、佐藤さんが息子さんの顔や名前がわからなくなったり、無表情、無反応になったりしたのは、認知症の症状ではなく、認知症から併発した老人性うつ病の症状だったのだと思います。認知症は脳の ()(しゅく) など、脳の機能が損なわれるものなので、これほど大きな回復は難しいはずですから。佐藤さんは、文福と触れ合うことにより、うつ病が改善され、劇的な回復が起きたのでしょう。それでも文福の癒やしの力は素晴らしいですよね!

亡くなる前日からベッドに寄り添い、看取り

 その後、佐藤さんの認知症は徐々に進行していき、トイレの使い方もわからなくなり、次にはトイレの場所がわからなくなり、常にオムツを使うようになります。食事を食べるということが理解できなくなり、職員が食事介助して、食べ物を口に入れるようになります。認知症の真の恐ろしさは、 (はい)(かい) とか、被害妄想とかではないんです。食べるということ、排せつするということが理解できなくなることなんです。しかし、それほど認知症が進行しても、息子さんのことは2度と忘れず、文福のことも最期までかわいがっていました。

 そして自然と体が衰弱し、食事を受け付けなくなり、佐藤さんはろうそくの炎が消えるように、ゆったりと死に向かっていきました。

 亡くなる当日、寝たきりになった佐藤さんのベッドに文福が上り、寄り添っていました。文福が顔をなめると、佐藤さんは、かすかにほほえみ、わずかに動く手を動かして文福をなでていました。そして微笑んだまま、佐藤さんは旅立ちました。文福に看取られながら。これ以上はないと言っていいほど、幸せな最期でした。

 これが文福の看取る力と癒やす力なのです。文福とご入居者様の触れ合いについては、次回以降より詳しくお話ししていきます。(若山三千彦 特別養護老人ホーム「さくらの里 山科」施設長)

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 社会福祉法人「心の会」理事長、特別養護老人ホーム「さくらの里 山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里 山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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3件 のコメント

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偶然知りました

ヒロ

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たまたま読んだ記事で文福を目にして、その生活に胸を熱くしております。一頭の元気な犬を預かり、文福と名付け一緒に暮らし、さくらの里にお届けし、頭が良くて愛敬はあれど、元気の良すぎるところもあり、不安はありました。しかし、職員の皆様や入居者の皆さまにも愛されて、文福も皆さまの愛情に応えているとのこと、大喜ともども本当にありがたいご縁でした。

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 はじめまして。九州の田舎で介護事業所を運営しております。 記事、読ませていただきました。 弊社では、5年前にサービス付き高齢者向け住宅を開設い...

 はじめまして。九州の田舎で介護事業所を運営しております。
記事、読ませていただきました。
弊社では、5年前にサービス付き高齢者向け住宅を開設いたしました。私は、『住み替え後も、相棒と暮らせるサ高住』を作り、運営したかったのですが、周囲の大反対に遭い、断念しました。現在もペット禁止となっております。
 貴施設のような方法もあったのかと、目から鱗です。もっと貴施設のことが知りたいです。

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動物と暮らすこと

はぴりん

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このコロナウィルスにより、ステイホームを心がけ、外で色々を発散が出来ない最中… 我が家では犬、猫を飼っており、外に行かなくなった分、ペット達に触れ、話かける時間も多くなった… 彼等は話す事は出来ないし、泣いたり笑ったりする事も出来ないのに…仕草や表情は俳優や女優の様に素晴らしく…そんな姿に飼い主は癒やされる… こちらの気持ちを透視しているかの様に、辛かったり悲しかった時には、手や顔を舐めてヨシヨシとこちらの気持ちを受け止めてくれたり… 逆にペットからの要求も、もちろんあり、何か要求がある時には、行く手も塞ぎ吠えたり、甘えたり、じっとこちらを見つめて上目遣いをしたり、顔の表情や可愛いポーズを取ったりして、見事な表現力でこちらにアピールしてくる… 
利害を求めない信頼関係があるからお互いを癒やし合える… 
人間同士はどこかで利害関係を考慮しながら
関係作りをしている…
動物の人間に対する純粋な信頼感…貢献心…本当に素晴らしいと…
文福ちゃんの利用者さんへの愛、信頼、貢献心… お給料を頂いてもいい位、いやお金に換算出来ない仕事をしている素晴らしい社員さんだと思います… 記事を読み、素晴らしい介護だなぁ…と感動させられました

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