ペットと暮らせる特養から 若山三千彦
医療・健康・介護のコラム
[看取り犬・文福](1)重度認知症の高齢者が劇的回復 元保護犬の特別な力
「 文福 、ありがとう」
唇がかすかに動いたかと思うと、次の瞬間、佐藤トキさん(仮名)は静かに息を引き取りました。その傍らには、文福がしっかりと寄り添っていました。
10人以上を看取った文福 認知症も癒やす
特別養護老人ホーム「さくらの里 山科」で暮らす文福は、柴犬系の雑種で推定10歳。保護犬(保健所から引き取られた犬)出身で特別な力を持っています。同じユニット(※)で暮らすご入居者様が亡くなるのを察知して、その傍に寄り添い、最期を 看取 るという行動をとるのです。と言うと、みなさんは「そんなばかな」とおっしゃるかもしれません。しかし、これはれっきとした事実なんです。私たちのホームで、文福はもう10人以上のご入居者様が亡くなるのを看取ってきました。文福のおかげでご入居者様方は、穏やかに、安らかに旅立つことができました。
文福が、ご入居者様を看取る活動が、あまりにも驚異的だったので、拙著「看取り犬・文福の奇跡」では、その看取り活動にスポットを当てました。しかし、文福の特別な力はそれだけじゃありません。文福の最も奇跡的な力は、認知症を癒やす力なんです。
私たちが、文福の二つの力、ご入居者様のご逝去を予測して看取る力と、認知症を癒やす力の真価を理解したのは、佐藤さんが入居した時のことです。
佐藤さんは入居時、80歳代で、重度の認知症のため、息子さんの名前も顔もわからなくなっていました。感情を表すこともなく、いつも無表情で、言葉を発することもほとんどなくなっていました。息子さんが声をかければ、食事をしたり、トイレを使ったりはできるのですが、自らそのような動きをとることはありませんでした。重度の認知症の典型的な状態の一つと言えます。
言葉を発することもなかったのに、笑顔で「ポチや」
息子さんたちは、佐藤さんが犬好きだったことから、「犬と一緒に暮らせる老人ホームに入れれば、少しでも元気になるかもしれない」とわずかな望みを託して、さくらの里山科を選んだのでしょう。「ダメでもともと」という気持ちだったと思いますが、その結果は、息子さんたちの期待をはるかに上回るものでした。
入居して数日後、佐藤さんは文福が近寄ってくるのを見ると、笑顔で「ポチや」と呼びかけて、抱きしめたのです。文福はギュッと抱きしめられても、めちゃくちゃになでられてもおとなしくしており、佐藤さんの顔をペロペロなめていました。
ごくささやかなことですが、自ら動くこともない、言葉を発することもない佐藤さんが、犬に呼びかけて抱きしめたのは、息子さんにとっては信じられないことでした。ここから、佐藤さんの劇的な回復が始まったのです。ちなみにポチとは、読者の皆さんのご想像通り、佐藤さんが昔飼っていた犬の名前です。
※ユニット さくらの里山科の場合、居室10室(完全個室制です)と、共有のリビング、キッチン、3か所のトイレ、浴室、脱衣室で構成された区画のこと。玄関もあり、一つの独立した住居のようになっている。いわば10LDKのマンションのようなつくり。さくらの里山科は、短期利用のショートステイまで合わせると120人の定員となり、12のユニットが置かれている。そのうち2階の2ユニットが犬と一緒に暮らすユニット、2階の別の2ユニットが猫と一緒に暮らすユニット。各ユニットの中で、犬や猫は自由に暮らしている。
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夢の施設
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動物と暮らすこと
はぴりん
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このコロナウィルスにより、ステイホームを心がけ、外で色々を発散が出来ない最中… 我が家では犬、猫を飼っており、外に行かなくなった分、ペット達に触れ、話かける時間も多くなった… 彼等は話す事は出来ないし、泣いたり笑ったりする事も出来ないのに…仕草や表情は俳優や女優の様に素晴らしく…そんな姿に飼い主は癒やされる… こちらの気持ちを透視しているかの様に、辛かったり悲しかった時には、手や顔を舐めてヨシヨシとこちらの気持ちを受け止めてくれたり… 逆にペットからの要求も、もちろんあり、何か要求がある時には、行く手も塞ぎ吠えたり、甘えたり、じっとこちらを見つめて上目遣いをしたり、顔の表情や可愛いポーズを取ったりして、見事な表現力でこちらにアピールしてくる…
利害を求めない信頼関係があるからお互いを癒やし合える…
人間同士はどこかで利害関係を考慮しながら
関係作りをしている…
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文福ちゃんの利用者さんへの愛、信頼、貢献心… お給料を頂いてもいい位、いやお金に換算出来ない仕事をしている素晴らしい社員さんだと思います… 記事を読み、素晴らしい介護だなぁ…と感動させられました
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