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のぶさんのペイシェント・カフェ 鈴木信行

医療・健康・介護のコラム

病状をネットに公開することで得られるもの

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良い情報が欲しければ、まず自分から

病状をネットに公開することで得られるもの

 先日は、このカフェのマスターのぶさんに、闘病記や患者会についてインターネットを使って探すアイデアをもらった。おかげで、腰の痛みに悩んでいる母と同じ症状の方に連絡してみたところ、ネットの先にいる見ず知らずの私に、すぐ返事をくれた。その距離の近さに驚いた。同じ病気を持っている方の実体験の話は、単に医療的な話ばかりではなく、生活に即した情報が多く、母にも役立ったようだ。

 このように、障がい者でもあり、がん患者でもあるのぶさんのアイデアは何かと役立つので、カフェに立ち寄るたびに聞いてしまう。

 私が注文したコーヒーをドリップしながら、のぶさんは話してくれた。「そうですね。インターネットは情報を得るには最高のツールですよね。そのために大切なのは、きちんと自分から発信することなんですよ」

「発信……?」

 のぶさんが言うには、SNSやブログなどで、自分の病状や現在までの経過、治療に対する考え、さらにはどういう情報を必要としているかなどをできるだけ公開するのだそうだ。以前、のぶさんが自分の病気を事細かにSNSで発信しているのを見た。

 「自分のことをオープンにすることで、よりよい情報をみんなが送ってくれるし、逆に怪しい情報なども淘汰(とうた)されていきますね」

新型コロナのデマにも惑わされず

 新型コロナウイルスについてのデマがSNSに掲載されたときを思い出した。その情報に対し、ネット上で多くの方がデマであることをコメントしてくれたおかげで、のぶさんも惑わされずに済んだという。

 そういえば、のぶさんは治る見込みのない自身のがんについてオープンにしている。周囲の方からの差別を受けるなどの、嫌なことはないのだろうか。

 「ないとは言いませんけど、それ以上にたくさんの有益な話が入ってきますからねぇ~」

 のぶさんが言うには、例えば、自分のがんの状況を細かく書くことで、同じ経験をした方から連絡があり、今後起こりえる話について聞けたこともあるという。実際に、がんの疑いがあると診断されて、治療を受けるための病院を選ぶ際、住んでいるエリアと病状についてSNSに書き込んだところ、読んだ人からいくつかの病院名が挙がった。のぶさんは、その中から通いやすさなどを考慮して現在の病院を選んだそうだ。

黙っていることで誤解を招くことも

 最近ののぶさんは、他の患者からの相談にも応じている。がんなどの重い病気の場合、周囲には黙っている人も多いが、逆に周囲の人に状況がわからないせいで、かえって誤解を招く可能性もあるらしい。

 そう言われて、職場でのある出来事を思い出した。

 先週、会社の同期が胃がんになったらしいと、同僚から聞いた。しかし、彼が自分のSNSに投稿している内容は、いつもと何ら変わらない。彼にぜひ、このカフェやのぶさんを紹介したいが、胃がんであることは直接聞いたわけではないから、言い出しにくい。少しでいいから病気のことをSNSで触れてくれれば、私も声をかけやすいのだが……。

 「病気になることは悪いことではないんです。堂々といまの自分の状況を客観的に書くことで、たくさんの方が応援してくれると、私は信じています」

 のぶさんは言う。

 私にできることはなんだろう。そうか、のぶさんのコラムをSNSでシェアしてみようか。うまく彼の目に留まるといいのだけど。

 さっそく、スマートフォンをカウンター席で取りだし、残ったコーヒーをすすりながら、自分のSNSに投稿してみた。「有益な情報が欲しいならば、まずは自分が発信すべし」というタイトルで。

 「シェアしてみましたよ」

 のぶさんに報告してみた。

 「その同僚の方からリアクションがあるといいですね」

 拭き上げたカップを棚に片付けながら、のぶさんは私に返事をしてくれる。その顔は、いつもより笑顔にあふれているように感じる。

(鈴木信行 患医ねっと代表)

 下町と言われる街の裏路地に、昭和と令和がうまく調和した落ち着く小さなカフェ。そこは、コーヒーを片手に、 身体(からだ) を自分でメンテナンスする工夫やアイデアが得られる空間らしい。カフェの近所の会社に勤める49歳男性の私は、仕事の合間に立ち寄っては、オーナーの話に耳を傾けるのが、楽しみの一つになっている。

(※ このカフェは架空のものです)

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鈴木信行(すずき・のぶゆき)

患医ねっと代表。1969年、神奈川県生まれ。生まれつき二分脊椎の障害があり、20歳で精巣がんを発症、24歳で再発(寛解)。46歳の時には甲状腺がんを発症した。第一製薬(現・第一三共)の研究所に13年間勤務した後、退職。2011年に患医ねっとを設立し、より良い医療の実現を目指して患者と医療者をつなぐ活動に取り組んでいる。著書に「医者・病院・薬局 失敗しない選び方・考え方」(さくら舎)など。


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