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耳鳴り 脳が作り出す音…しくみ理解 苦痛軽減
加齢などによる難聴に伴って生じる耳鳴りは、しくみを正しく理解するカウンセリングや補聴器の使用により、苦痛を軽減できることが分かってきた。(小屋敷晶子)

診療の指針
耳鳴りは、外部で音がしていないのに音を感じる状態だ。9割は難聴を伴うとされる。日本人の15~20%、65歳以上では30%以上に耳鳴りがあり、300万人が受診しているとみられる。
音を聞くのに欠かせないのは、鼓膜の奥にある渦巻き状の 蝸牛 。音を電気信号に変えて脳に伝える。ここに何らかの障害が起きると信号が減る。高齢者は高音域に影響が出やすい。
脳は減少した信号を補おうと感度を上げ、興奮した状態になる。体の外にはない音を脳が作り出す。これが耳鳴りのしくみだ。
耳鳴りに注意を向けすぎると、より大きく感じる。不安やイライラなどの感情と耳鳴りが結びつき、苦痛が強まる悪循環に陥りやすい。ストレスも加わり、うつ症状が出ることもある。
日本聴覚医学会は昨年、耳鳴り診療の初のガイドライン(指針)を作成した。治療法として教育的カウンセリングを推奨したのが特徴だ。耳鳴りが生じるしくみを知ることで、無用な不安を解消できるという。
補聴器で音を補い、脳の興奮を抑える治療も有効とした。川の音やラジオのノイズを流す音響療法は、脳の注意を耳鳴りからそらすのが目的だ。薬による治療は、不安やうつ症状の改善を期待して行われる。
指針をとりまとめた慶応大耳鼻咽喉科教授の小川 郁 さんは、「普段は意識しないエアコンの音も、指摘されると聞こえる。カウンセリングにより、脳の耳鳴りへの注目を減らすことができる」と説明する。
カウンセリング
埼玉県所沢市のA子さん(71)は14年前、旅先で左耳が突然聞こえなくなった。この時は治療で聴力が戻ったが、間もなく「ブー」という耳鳴りと、「音が突き刺さるような」聴覚過敏に悩まされるようになった。
病院では「耳鳴りの治療法はない」「気にしないで」と言われるばかり。転院を重ねた末、A子さんは2016年秋、済生会宇都宮病院の耳鼻咽喉科医・ 新田 清一さんを訪ねた。
耳鳴りの原因には、中耳炎やメニエール病、耳周辺の血管の異常などもある。薬や手術で治療できる、こうした病気の有無を調べるため、問診や診察、聴力検査が行われた。
A子さんは教育的カウンセリングに進んだ。耳鳴りで聴力が失われないこと、脳の病気の前兆ではないことなどが説明された。悪化への不安を訴えても、「大丈夫ですよ」と受け止めてもらえ、安心できた。
新田さんの勧めでA子さんは補聴器を着けることにした。当初は周りの音がうるさく聞こえたが、1~2週間ごとの通院で調整を重ね、耳を慣らしていった。
3か月近くたったある日、耳鳴りを忘れていることに気づいた。完全に消えてはいないが、A子さんは「もう苦にならない。趣味のスキーやテニスも楽しんでいます」と晴れやかに話す。
新田さんは「年を取ればほとんどの人に耳鳴りはある。しくみを知り、考え方を変えるだけで、多くの場合、苦痛は軽減できる」と話している。
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