夫と腎臓とわたし~夫婦間腎移植を選んだ二人の物語 もろずみ・はるか
医療・健康・介護のコラム
病は恋の起爆剤? がんになった母は父に…
私には、かれこれ10年ほど、間違いないと信じている「持論」がある。それは、重い病を抱えている夫婦ほど、何年も、何十年も、男女の関係であり続けるという持論だ。病気になれば、恋心を抱く余裕もなくなると思われるかもしれない。しかし、私の周囲を見渡すと、不思議と逆に働くことが多いようなのだ。
金の切れ目は縁の切れ目だけど…
昨年ヒットしたドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』のDVDを見ながら、「どこかで見たような」という既視感を感じた。もともと元気だった戸田恵梨香さんが若年性アルツハイマー病を患う。戸田さんは、彼氏のムロツヨシさんに「迷惑がかかるから」と別れを切り出すが、ムロさんの恋心がさめることはなかった。むしろ激しく戸田さんを求め、妻として迎え、明るく 健気 に妻を励ます姿を、私は、知り合いのカップルたちに重ねた。
大きな病と無縁の視聴者なら、「でもなあ、 所詮 ドラマだし……。現実には、病気になったらカップルの愛もさめるよ」と思ったかもしれない。確かに、アルツハイマー病は、過酷で残酷な病だと思う。けれど、私は持論を信じている。病を抱えながら、大恋愛中のカップルを知っているからだ。「金の切れ目は縁の切れ目」は否定しないが、健康が切れても縁は切れない。
SNSは恋バナの応酬
腎移植後に、はじめた新習慣がある。ツイッターだ。
400フォロワー程度の小さなアカウントだが、その多くは腎臓病を患う方であり、彼ら彼女らのつぶやきは私の日常に彩りを添えてくれている。実は、このツイッターとフェイスブックを使って、こっそりやっていることがある。
それは、同じ病を抱える患者同士で、夫や妻の恋バナをDMでシェアすること。「うちの夫が 愛 しくて」「うちの妻もなかなか最高なんです」などと、公の場で話せば、「おなかいっぱい」の恋バナも、同じ病を抱えるもの同士であれば「ウンウン、それで?」と共感しあえる。
例えば、夫が人工透析中だという女性は、人工透析を始めてからの方が夫婦仲が良くなったと話してくれた。元気な頃の夫は、イケイケの営業マンで、複数の女性と浮気していたことも知っている。離婚を考えたこともあるそうだ。しかし、夫が糖尿病を患って末期腎不全になると、二人の関係性は変わった。長年、家の外に向き続けた夫の矢印が、妻や子どもに向くようになり、数十年ぶりに夫婦で愛し合ったという。
そんな話は、SNSのDMにおいて、珍しい話ではない。ドラマ「大恋愛」に負けないほどの大恋愛を続行中のカップルが、私の周りには確かにいる。
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