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田村専門委員の「まるごと医療」

医療・健康・介護のコラム

薬剤師が主人公の漫画「アンサングシンデレラ」 テレビドラマに

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「もしかして 薬剤師って いらなくない?」

薬剤師が主人公の漫画「アンサングシンデレラ」 テレビドラマに

 「もしかして 薬剤師って いらなくない?」

 総合病院に勤める2年目の女性薬剤師の、そんなつぶやきで始まる漫画「アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり」(作・荒井ママレ)。アンサングとは、「褒めたたえられない」とか「名もなき」という意味で、医療を縁の下で支える存在ということらしい。「月刊コミックゼノン」(徳間書店)で2018年7月号から連載が始まり、これまで単行本3巻が出版されている(第4巻は4月20日発売予定)。4月からは石原さとみさん主演でテレビドラマにもなる。

 医療物の漫画やドラマが花盛りだが、医師や看護師が主役のことが多いなかで、薬剤師が主人公なのは異色。薬剤師ならではの薬の専門知識を織り込みつつ、現在の医療をめぐる課題を描いたリアルな内容で、筆者の知り合いの薬剤師らの間でも早くから評判となっていて、ドラマ化を熱望する声も高かった。漫画の医療原案を務める現役の病院薬剤師、富野浩充さんに、連載に込めた思いなどについて話を聞いた。

病院や診療所に約6万人

 厚生労働省の医師・歯科医師・薬剤師統計(2018年12月31日現在)によると、全国の届け出薬剤師数は31万人余り。勤務先別でみると、薬局が約18万人と6割近くを占める一方、病院や診療所に勤める薬剤師も約6万人と2割近くいる。

 患者が持つ薬剤師の一般的なイメージと言えば、外来で医師から出された処方箋を薬局に持っていくと、薬の説明をしたうえで渡してくれる医療職といった感じだろうか。医師や看護師に比べると、直接、患者に接する機会は限られ、特に病院で働く薬剤師というと、どんな仕事をしているのか、患者にとってはよくわからないことも多い。

 「アンサングシンデレラ」は、若手薬剤師のみどりが、薬の専門家として、またチーム医療の一員として、患者に寄り添いながら薬剤師の存在意義について自身に問いかけつつ、成長していく物語だ。たとえば、医師の処方に対して疑問がある場合に問い合わせる疑義照会は、薬剤師の基本的な仕事のひとつだが、組織や人間関係のなかでは一筋縄ではいかないことも。この作品では、具体的な薬の特徴や副作用、飲み合わせなどが物語の鍵を握るほか、現在の日本の医療が抱える課題も背景に描かれる。

多くの人に薬剤師の仕事を知ってほしい

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単行本第3巻より ©荒井ママレ/NSP 2018

 医療原案を務める富野さんは、静岡県の焼津市立総合病院薬剤科に勤務する薬剤師だ。出版社を通じて、文書による、10の質問に答えていただいた(内容について一部ネタバレの部分があります。※は筆者注)。

――「アンサングシンデレラ」の監修をされることになったきっかけは? また、引き受けられた理由は何ですか?

   きっかけは、現在の担当編集から「薬剤師漫画を作りたいが監修をしてくれないか」と言われたことです。それまでも、薬剤師の仕事は周知されていないと感じていて、薬剤師ネタの同人誌など作っていましたが、漫画になれば大きい影響を与えられると感じて受けました。

――「アンサングシンデレラ」を通じて、一般の読者(またはテレビの視聴者)に、どんなメッセージが伝わればいいと考えていらっしゃいますか?

   薬剤師がどんな仕事をしているか、多くの人に認識してもらえればよいです。この物語を読んで、ゆくゆくは薬剤師を目指してくれる人がでてきたら本望です。

――「アンサングシンデレラ」には、薬の相互作用をはじめとして専門的な話が登場します。一般読者にわかっていただくための題材の選び方の工夫や、また苦心したのはどんな点ですか。

   現実の動きを考えすぎると、くどくなったり物語がスムーズに進まなくなったりすると感じています。たとえば第2話では、患者は3歳の設定ですが、マイコプラズマの好発年齢は6歳くらいからです。クラリスロマイシン(※抗生剤の一種)が飲めなければ、1日1回、3日間飲めば終了するアジスロマイシン(※同)への変更を考えるのもありですし、最悪飲まなくてもそこまで重症化しない病気なので、やめてしまうのも手です。ネームの段階で指摘することもありますが、漫画として見せることを考えてスルーする場所など編集さんと相談しています。

――主人公の葵みどりに、富野さんの思いを代弁させたようなセリフ、または気に入っているセリフがあれば、場面とともに教えてください。

   第1話の「薬剤師っていらなくない?」というセリフです。これは常に考えて働いています。好きなシーンは、第9話で小児科の久保山先生が「とべ! にゃん介」のスクラブ(※半袖の医療衣)を自慢しているシーンです。あと、第18話で小野塚(※薬局の薬剤師)がかかりつけ薬剤師について「地獄のような制度ですよね」と、バッサリ斬っているシーンは、現場の思いを代弁しているのではないでしょうか。

現実はまだまだ難しい状況も

――多職種連携や地域連携などもテーマになっています。現実の医療の世界における薬剤師さんの置かれている現状について、どうお考えでしょうか。

   まだまだ現場では頭の固い人や(※医療保険の)点数につながらないこと、割に合わないことも多くあって、院内と院外の連携は難しいと感じます。組織が大きくなればなるほど動きづらいです。また、薬剤師会と病院薬剤師会に分かれていることも一因でしょう。多職種連携について確固たる立ち位置が決まっている医師や看護師と比較して、動きが難しいと感じます。逆に、縛りが少ないとも取れるので、どのようにも動けると考えることもできます。

――富野さんご自身が薬剤師になられた理由は何ですか。

   高校時代に化学が得意だったので薬学部に進学しました。本当は文学系に興味がありました。

――富野さんが考える理想の薬剤師とはどんな薬剤師ですか。

   科学者であり、医療者でもある。街の科学者。「異世界薬局」(※高山理図さん著作の小説・漫画)に登場するファルマ並の知識があったらなあ、とは思います。

――「アンサングシンデレラ」について、薬剤師さんからや、また、他(薬剤師以外)の医療職からは、どんな反響がありますか。

   1巻が出た頃に、「医師の書かれ方がちょっと……」と医師から言われました。薬剤師からは期待が大きいと感じます。

――ドラマ化についての富野さんの思いや読者、視聴者へのメッセージがあれば教えてください。

   既刊3巻という時点でのドラマ化はちょっと早い感じもしますが、病院薬剤師(本誌では薬局薬剤師もこれから絡んでくるかな……。ドラマではどう扱われるかまだわかりません)がどんな仕事をしているか感じていただけたらうれしいです。

――薬学部の学生さんをはじめ、薬剤師を目指そうという若者に対するメッセージがあれば教えてください。

   他の医療職と違い、薬剤師の就職先は病院や薬局だけではないです。医療系だけではない魅力も感じてください。

病院だけでなく地域の薬局でも

 株式会社実務薬学総合研究所教育事業部長でアンサングシンデレラの愛読者という薬剤師の水八寿裕(みず・やすひろ)さんは「薬剤師が主人公の連続ドラマはおそらく初めてではないか。これまであまり医療の表舞台に出ることがなかった裏方としての存在を、ちゃんと取り上げていただけたのはありがたい。薬剤師の仕事が知られるチャンスだと思う」と期待を寄せている。

 地域の薬局の薬剤師に患者のかかりつけ機能を求めた医薬品医療機器等法(薬機法)の改正もあり、医療全般において、これからの薬剤師が担うべき役割は大きい。漫画やドラマを通じて、これまであまり知られてこなかった薬剤師の仕事が伝わることで、患者の側ももっと薬剤師を「活用」するようにつながればと思う。

 (田村良彦 読売新聞専門委員)

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田村 良彦(たむら・よしひこ)

 読売新聞東京本社メディア局専門委員。1986年早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。西部本社社会部次長兼編集委員、東京本社編集委員(医療部)などを経て2019年6月から現職。

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2件 のコメント

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本や漫画を医療人のキャリアに活かすために

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

医療の仕事の中で難しいのは、医療者が診断と治療を選び実行することと、患者サイドの理解や共感に伴う行動へのすり合わせです。 例えば、同じ疾患の治療...

医療の仕事の中で難しいのは、医療者が診断と治療を選び実行することと、患者サイドの理解や共感に伴う行動へのすり合わせです。
例えば、同じ疾患の治療でも施設差や地域差はありますが、現場がうまく回っている時にいきなり無理やり変える必要はありません。
かえって混乱を招きます。(そういう部分の分かるスタッフは凄く有難い。)

相互理解の観点では、医療系職種の物語だけでなく様々な代理経験を重ねることは重要だと思います。
職種と役職が同じでも、地域や施設により立場や仕事はまるきり違います。

描かれているのは、過去や現在の医療における薬剤師の仕事だと思いますが、背景の絵や登場人物、発言内容を少し変えるだけで、違って見えることは想像がつくと思います。
医療内外の社会やサービスの在り方も変わってきています。
ひょっとすると、医師と患者の間の薬剤師ではない未来もどこかにあるかもしれません。

20世紀と21世紀の経済理論は全く違うと有名コンサルタントのメルマガで読みましたが、個々を支えるマクロ経済の実際が変われば、やがて生活が変わり、医療の在り方も何割か変わるのではないかと思います。
たいていのドラマは主人公がヒーローですが、多くの医療者はむしろ脇役というのもポイントで、どこでどのように生きるかのヒントが見つかるのではないかと思います。

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マイナーな職種の役割と処世術

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

個々の医師も、ナースや医師その他との共同作業の中で生き方を模索しますが、薬剤師さんも似たようなところがありますね。 薬剤の多様化などへの対処から...

個々の医師も、ナースや医師その他との共同作業の中で生き方を模索しますが、薬剤師さんも似たようなところがありますね。
薬剤の多様化などへの対処から、医師の仕事を補完することが今後多くなるのではないかと思います。
一方で、それらの仕事は必ずしも薬剤師さんである必要はなく、あれもこれも覚えて指示できるわけでもない、医療職種と競合する関係にあります。

僕も放射線科医か一般内科医かよくわからない生き方をしていますが、有名な放射線科専門医でも日本代表ドクターでの登録する時には内科医だったりします。
結局、外科と内科くらいしかピンとこない人の多い一般社会での仕事や役割の認知で細かいことを言うよりも、自分が見せ方や振る舞い方を適宜調節したほうが楽だからです。
とはいえ、先天的個性にせよ、後天的に獲得した仕事の能力にせよ、擬態するにもエネルギーはいるわけで、漫画やアニメのような虚像であってもシンボルが出現するのは悪いことではないです。

一般病院のバイトに行くと、放射線科医を知らないベテランの医師やナースも多いので、診断の読み筋や治療のさじ加減で揉めることはよくあります。
患者さんの最悪まで想定するなら必要な、一般的でない深読みや一般薬剤のジェネリックの名前の知識の弱さなどで実力を疑われるとやりづらい部分があります。
一方で、優秀で当たりの柔らかい薬剤師さん(医師や看護師でもいいですが)がサポートしてくれれば、画像診断や稀な病態の諸々に強いことが前向きに行かせます。
重要なのは薬剤師の活用ではなくて、医療チームにおける様々な薬剤師の能力や個性ではないかと思います。
本当に大事なのは、役職や資格というロールモデルを見ながら、煩雑な医療の実際を医療者と患者で共有することではないかと思います。
分からない、任せる、という部分も含めて。

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