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田村専門委員の「まるごと医療」

医療・健康・介護のコラム

3月11日に考えるリスクコミュニケーション 新型コロナウイルスとどう向き合うか?

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検査には利益と害がある

3月11日に考えるリスクコミュニケーション 新型コロナウイルスとどう向き合うか?

 たとえば、インフルエンザの検査。発熱やせきで苦しいからという理由ではなく、検査を受けるために受診するという患者がいる。症状もないのに受診すれば、むしろ感染の機会を増やすし、不要な治療や医療費の無駄にもつながる。逆に、検査をしても、感染しているのに正しく結果が出ない偽陰性の可能性だってある。検査は必ずしも100%ではない――。

 「『ニセ医学』に騙されないために」などの著書で知られる医師の名取宏(なとり・ひろむ)さんに昨年インタビューした際、強調されたのが過剰な検査のマイナス面についてだった。検査には必ず利益と害があり、利益のほうが大きい場合にだけ検査を行うといった判断が必要という。

 だが実際の臨床現場では、大勢の患者が待っているなかで延々と説明に時間をかけるわけにもいかない。不安を抱えた患者に、検査をしないことの意義を説明するのは容易ではない。「求められれば検査をすることもある」と、臨床現場での悩みを話してくれた。

保険適用=だれでも受けられる、ではない

 新型コロナウイルスの検査が保険で受けられるようになった。患者の自己負担分は公費で補助されるため、患者の費用負担はない。検査態勢も強化されたという。これまで、診察した医師が検査を必要と判断したにもかかわらず、検査につながらなかった例が指摘されており、必要なケースで必要な検査が行われるようになることは重要だ。

 ただし、保険適用されたからと言って、不安だからという理由で患者がむやみに検査を求めるのは、本人にとっても社会にとってもマイナスだ。態勢が強化されたとは言え、資源には限界がある。重症患者への検査が滞るようなことがあれば本末転倒だろう。

 また、新型コロナウイルスの感染を調べるPCR検査は、少ないウイルス量でも遺伝子を増やして調べる優れた検査法だが、100%ではない。偽陰性の可能性もあれば、逆に感染していないのに陽性と出てしまう偽陽性の可能性もある。マイナス面も大きい。

ウイルスと放射能 共通する目に見えないものへの不安

 2011年3月11日の東日本大震災から9年。今年の政府主催の追悼式は、新型コロナウイルスの影響でやむなく中止になった。震災とそれに続く原発事故によって、今も多くの人が住み慣れた土地を離れたり、震災前の生活を奪われたりしたままである状況には変わりない。

 9年前、連日のように報じられたのが、原発事故による放射能の健康へのリスクだ。どれだけの量の放射性物質が、どれだけの範囲に拡散されたのかという基本的な情報が不足した状況で、「ただちに健康への影響はない」といった上からの一方的なメッセージは、かえって不安を招いた。様々なデマも広がった。

 リスクの受け止め方には、個人差が大きい。放射能の被曝(ひばく)とウイルス感染を同列に論じるべきではないかもしれないが、目に見えないもの、正体がよく分からないものに対する不安という点では、共通するものがある。迅速かつ徹底した情報公開とともに、不安に寄り添うことのできる対応が欠かせない。

かかりつけ医、かかりつけ薬剤師を持つ意味

 厚生労働省は2018年度、デーモン閣下らを起用した識者懇談会で、上手な医療のかかり方を広めるためのキャンペーンを始めた。勤務医の過剰な長時間労働の是正などを背景としたものだが、市民に対しては、不要不急の受診を控えることなどを求めている。

 新型コロナウイルス感染での受診の目安として厚労省は、風邪症状がある場合は会社や学校を休んで自宅で様子をみたうえで、症状が4日以上続く場合や、高齢者や持病がある人では2日程度続く場合などと示した。軽症の人が医療機関を受診することで、重症患者の命を救うための機能が果たせなくなることや、受診によって逆に感染を広げることを防ぐなどのねらいがある。

 しかし、発熱が続くのに、受診を我慢しなければならないのかどうか、どんな場合ならば急いで受診した方がよいのか、自分だけで判断するのは難しい。「持病がある人」というのが、どの程度のことを言うのかも曖昧だ。ふだんから自分の健康状態について把握してくれて相談のできる、かかりつけ医やかかりつけ薬剤師を持つことの大切さを、こういう事態だからこそ、改めて感じる。

 患者が、感染のリスクを冒して医療機関まで足を運ばなくても、医師からアドバイスを受けられるオンラインの活用も重要だ。新型コロナウイルスとの闘いは始まったばかりだが、今回の事態が医療へのかかり方を変えるきっかけになり得るのではないか。

対策を成功させる鍵は?

 9年前、放射能問題で市民とのコミュニケーションについて専門家に話を聞いたとき、印象に残ったのは、「上からの一方的なメッセージではなく、対策などについて市民が参加して決めることが、納得や理解につながる」というものだ。もちろん、それには徹底した情報公開がされていることが大前提だ。

 WHOシニアアドバイザーの進藤奈邦子さんは読売新聞の取材(3月7日朝刊)に、新型コロナウイルス対策を成功させる鍵として「国は客観的な事実に基づいて情報を提供し、それを受けて個人が自己責任で行動する」「多くの人が個人として納得して行動することには、反発を招きやすいトップダウンとは違う大きな力がある」と述べている。

 なぜその対策が必要なのか、市民の側の理解と納得なしでは、効果を発揮することはできないだろう。情報公開と十分な説明が必要だ。(田村良彦 読売新聞専門委員)

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田村 良彦(たむら・よしひこ)

 読売新聞東京本社メディア局専門委員。1986年早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。西部本社社会部次長兼編集委員、東京本社編集委員(医療部)などを経て2019年6月から現職。

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5件 のコメント

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変わる公式情報の解釈と柔軟な対応の必要性

寺田次郎 六甲学院放射線科不名誉享受

無症状・軽症例は放っておいて、重症例・クラスター対策に重点を置く政策は、日本独自のもので多数派、海外では一般的でない。 という趣旨の、著名人の発...

無症状・軽症例は放っておいて、重症例・クラスター対策に重点を置く政策は、日本独自のもので多数派、海外では一般的でない。

という趣旨の、著名人の発言をネットで見かけました。

日本はPCRの偽陽性や偽陰性、検査による感染リスクなどがコストや労力に合わない判断と感染速度を遅らせて診断治療の改善を考えるという判断で、優先順位の問題です。
さっさと全員に感染させて、生き残った奴が正義という発想も無いわけではありませんが、人道的ではありませんし、むしろ、海外も日本式にシフトしつつあります。

限られた物的資源、人的資源、再生産能力の中での戦い、とまさに軍事的観点そのものですが、他国のやり方は尊重しつつも、日本という島国は別のやり方も有効だと考えたのは間違いありません。
もちろん、経済も含めて今後急速に日本のデータも変わるかもしれませんし、日本のやり方が全部正しいとも絶対に成功するとも思いませんが、海外でのデータやデータ外の情報を踏まえて対策を考え、修正していくのは大事です。
コロナは風邪のようなもの、と最初は言われていましたが、重症化数や死亡者数を見れば想定外の悪性度だったわけで、まだ未知の重症化の経路の可能性も考えられますし、戦局を見ながらの修正は間違いではないでしょう。

今後、肺CTなど定期検査などに伴う偶発的な発見や一部施設での院内感染の出現なども想定して、事後処理など共通の対策を考える必要があると思います。
本当にわからないものは無理ですが、既存或いは想定できるトラブルの知識や改善の共有をしていくことが様々なリスクを減らすと思います。

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コロナに奪われた時間か与えられた時間か?

寺田次郎 放射線科サッカー部スペイン代表

刑務所に入った外交官の本を読み始めました。 戦時下の特高警察による拘束やシベリア抑留に比べたら大したことないし、過労死レベルの仕事に追われている...

刑務所に入った外交官の本を読み始めました。
戦時下の特高警察による拘束やシベリア抑留に比べたら大したことないし、過労死レベルの仕事に追われているより、税金でゆっくり生活して勉強できるなんて素晴らしい、と書いてありました。
コロナ蔓延と同じく、いつ終わるともわからない長い拘留生活に向けての自己催眠の部分もあるでしょうが、書籍や映像による代理経験をうまく活用して、不自由な時間や空間を前向きに活かす技術のようにも思えます。
目先のテストに追われず、低コストで読書やバーチャル旅行なども出来る時間は若者には有益だと思います。

さしあたっての敵は新型コロナウイルスではありますが、我々が本当に立ち向かっているのは旧来の社会制度や生活様式という判断も出来ます。
大きな技術の出現に大して、社会はゆっくり変わっていき、歪みは溜まって行っているのがIT化により急速に変化している現代社会の現実ではないかと思います。
お金や生活を依存している時間が長いので、離れがたい部分もありますが、コロナによりその社会との接続時間が強制的に時短になりました。

格差社会の進行のため、教育、納税、勤労の三大義務もそれぞれの意味や価値の多様化が起こり、コロナ蔓延をきっかけに市民に経済危機とセットで変化への対峙を求めました。

世界大戦も経済危機の後に起こりがちなわけですが、世界的に庶民は好き嫌いよりも経済的理由で戦争に巻き込まれることが多いわけで、新型コロナウイルスとの戦争の中で、集団疎開の亜型の状況にある人間が何を考えて、行動するか、というのは次に発生する問題へのリスクへの対応能力に関わってきます。
我々がどういう集団に関心や時間を依存するのかの再分配は、富の再分配と同じくらい治安や戦争の抑止に働くのではないかと思います。
関係無いようで、空いた時間やエネルギーの受け皿も課題だと思います。

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標準感染対策の限界と経済対策とのバランス

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

少し遅れてWHOからのパンデミック宣言も出ましたし、日本でもオリンピック関係の有名人が罹患したそうですが、ボディランゲージの強い欧州での拡散が広...

少し遅れてWHOからのパンデミック宣言も出ましたし、日本でもオリンピック関係の有名人が罹患したそうですが、ボディランゲージの強い欧州での拡散が広がりを見せています。

偉い人は様々な理由もあって、確かな情報をもとに、誰の文句もつかない状況下でしか認定や命令を出しにくいわけですが、それを悪用する人が出るのは無理からぬことと思います。
過去の災害時も色々あったわけで、そんな中で、落ち着かせるのは官公庁やマスコミ
の仕事ではないかと思います。

マスク、手洗い、うがい、集会制限である程度感染を遅らせられている日本ですが、完全でもなく、経済やキャッシュフローとの兼ね合いが難しいです。
命の価値という部分もそうですが、疾患の全体像や人種や生活習慣ごとの個体差が見えないからより一層ですね。
一方で、社会活動や経済活動との兼ね合いも今後どうなるか気になります。
国家非常事態宣言が戦時中のような変な方向に向かわなければよいのですけれど。

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