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がん患者の「緩和ケア」…大切な時間 痛み抑えて

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 がん患者の心身の痛みなどを和らげる「緩和ケア」が広がっている。がん治療の拠点病院の医師らに、緩和ケア研修の受講を強く求めるなど、国も普及を進める。病院ぐるみで患者とその家族を支える取り組みも出てきた。(竹井陽平)

がん患者の「緩和ケア」…大切な時間 痛み抑えて

  1泊2日の小旅行

 2月9日午後、東京ディズニーシー内のホテルミラコスタ(千葉県浦安市)。卵巣がんの石川貴子さん(50)と夫・ ゆたか さん(51)はスイートルームに入った。眼下で、にぎやかなショーが繰り広げられる。「また来られて良かった。2人は目を合わせてほほ笑んだ。

 貴子さんはこの8年、闘病を続けてきた。2012年3月のがん摘出手術と、その後の抗がん剤治療により、一度はがんを抑え込んだ。しかし、18年秋に再発と転移が分かり、横浜市大病院に入院した。

 抗がん剤を数種類投与した後、使える薬がなくなった。いったん心を閉ざした貴子さんだが、裕さんや主治医で産婦人科医の鈴木幸雄さん、看護師らと何度も話し合い、少しずつ状況を受け入れていった。

 落ち着きを取り戻すと、病棟の看護師との会話が増えた。そんな中、ふと口にした「ディズニーが好きなんです」。中学2年の時、開園直後の東京ディズニーランドに家族で出かけたことや、結婚してからは年1回のペースで訪れていることなどを話した。

 この話題は、貴子さんを取り巻く医療従事者の間で共有された。「なんとか思いをかなえたい」――。病院ぐるみでの取り組みが始まった。

 主治医チームは、貴子さんの肺にたまった水を抜いて体調を整えた。退院支援チームは、車いすのまま乗り込める介護タクシーを予約し、酸素吸入用のボンベをホテルの部屋に手配した。緩和ケアチームは、宿泊先で使う医療用麻薬の処方などを行った。

 こうして実現した1泊2日の小旅行。体調は良く、園内の散策や買い物、人気キャラクターと一緒のランチを楽しんだ貴子さん。「病院の皆さんと夫のおかげで夢がかなった。次は何をしたいか考えたい」と笑顔を浮かべる。

  診断された時から

 がん患者にとって闘病生活の課題の一つが痛みだ。緩和ケアは、国のがん対策推進基本計画で、治療法の開発などと並ぶ主要項目の一つになっている。

 石川さんのような進行がんに限らず、緩和ケアは、がんと診断された時に始まる。身体的苦痛は、がん診断時に20~50%、進行がんで70~80%に生じるとされる。さらに精神的苦痛、仕事や経済的な問題など社会的苦痛、人生の意味と向き合う魂の苦痛も加わる。

 緩和ケアを多くの医療従事者に学んでもらおうと、厚生労働省は、横浜市大病院など全国に393あるがん診療連携拠点病院に対して、所属する医師、歯科医の9割以上が研修を受けるよう求めている。

 こうした政策の効果もあって、研修を受けた医師らの累計人数は、12年3月の3万人強から、18年9月には11万人を超えた。

 同病院の鈴木さんは「がんゲノム治療など最先端の治療技術ばかりではなく、患者と家族が大切な時間を過ごせるよう支援する緩和ケアへの理解がもっと広まるべきだ」と話している。

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