アラサー目前! 自閉症の息子と父の備忘録 梅崎正直
医療・健康・介護のコラム
「息子より一日だけ長く生きたい」と思ったこともあるけど…
子どもは親より先まで生きていく
「私の夢は、息子より1日だけ長く生きること」
走るのが得意な自閉症の青年を描いた2005年の韓国映画「マラソン」で、母親がつぶやいたセリフだ。この映画をDVDで見たとき、洋介はまだ中学生だったろうか。それはまさしく、僕自身が思っていたことだった。息子より先に逝くことを想像するたび、恐怖を感じていた。
が、被災地を逃れた地で、小窓からママとパパを探していた男性に出会い、それから、僕の中で何かが変わったのだった。
これが現実なんだ。子どもは親より先まで生きていく。重い障害があっても、高齢期を迎えることができるなら、それは親のものでも誰のものでもない、洋介の人生だ。
「パパはもう要らない」となるまでは
僕らの住んでいる地域でも、グループホームの待機者は100人を下らないそうだ。親亡き後の体制を整えるのが親の最後の務めだが、容易ではない。でも、洋介の周りには、地域の小学校に通った6年の間にできた多くの仲間や先生、通所施設やショートステイの職員、ボランティアのおじさん、おばさんなど、少しずつだが見守ってくれる人たちが大勢いる。今では、昼間は東京の会社に行っている僕なんかよりもずっと、地元でずっと顔が利く存在なのだ。「洋ちゃんのお父さんですよね」と、街で声をかけられることも多い。
当の本人は、誰とも相手の名前を言わないけれど、好きな人には男女を問わず(若い女性のことが多いが)、顔を3センチくらいまで近づけて「あいさつ」をする。洋介自身は、着々と自分の人生を築いているのだ。その力を信じて、「パパはもう要らない」となるまでは……。(梅崎正直 ヨミドクター編集長)
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