アラサー目前! 自閉症の息子と父の備忘録 梅崎正直
医療・健康・介護のコラム
「息子より一日だけ長く生きたい」と思ったこともあるけど…
2011年3月11日は、千葉県の北部でも、震度6の揺れがあった。河川や湖沼の近くの集落は大きな被害を受けていたが、わが家の周辺では、壁にひびが入り、家財が散乱したくらいで、避難所を利用するような事態にはならなかった。
もし、避難を余儀なくされていたら、どうだったろう。東北の被災地では、障害のある子どもがいる家族が、避難所にいられず車中泊で過ごしたことも報じられた。普段でも落ち着きなく動き回ったり、大きな声を出したりすることのある人が、見知らぬ人々でごった返す避難所のストレスにさらされたら、パニックを起こすこともあるだろう。密集した中では、排泄の世話だって気が引ける。トラブルを避け、自分の車の中に居場所を求める気持ちは痛いほどわかる。わが家のことを考えても、洋介を伴っての避難所生活など、想像もできなかったのが本当のところで、それは今も変わらない。
岩手や宮城の被災地で取材をしていると、地震が起きたその日、障害のある人と家族が、地域の特別支援学校に身を寄せたケースがあった。子どもの頃に通ったなじみの場所で、障害に関する知識のある職員もいる。自閉症など発達障害のある人にとっても安心だし、視覚障害の人は、「メンタルマップ(頭の中にある地図)がすでにできている母校にいるのが、とにかく安心だった」と話した。ただし、あらかじめ避難所に指定されていないと支援物資が届かず、「物資を摘んだトラックが目の前を通過して悲しかった」という声も聞いた。震災から9年が経過したが、あの経験は受け継がれているのだろうか。

イラスト:森谷満美子
小窓からママとパパを探し…
震災取材では、忘れられない経験がある。福島第一原発に近い障害者施設の入所者たち約300人が、避難所や他の施設を転々とした末、最終的に千葉県が提供した宿泊施設に移動してきたのだ。重度知的障害の人が大半で、引率され、それぞれの部屋に入った。60代以上とみられる高齢の人も多かった。スタッフが荷物の整理に忙殺されるなか、入所者たちは、暗い部屋のベッドに座って呆然と宙を見詰めていた。
騒然として、落ち着かない空気のなか、狭い廊下の突き当たりにある小窓から、一人でずっと外を見ている男性を見つけた。小柄で、頭髪はすでに白く、70歳近いと思われた。何げないふりをして近づくと、小さな声が聞こえた。
「ママ、パパ……」
それを聞いたとたん、ぎゅっと胸を締め付けられた。予期せぬ災害と事故によって故郷から遠く離され、彼が探しているママとパパは、まだ健在なのだろうか。生きていたとしても、この災害で無事だったのだろうか。
数十年後、僕も妻もいなくなった世界で、洋介もママとパパを探すのだろうか……。
1 / 2
【関連記事】
障害をお持ちの方特有の距離の近づけ方
みかん
はじめまして。最近、連載を知り、一気に読ませていただきました。何か今後へのヒントをいただけるのではないかと思い、ご無礼お許しください。好きな人に...
はじめまして。最近、連載を知り、一気に読ませていただきました。何か今後へのヒントをいただけるのではないかと思い、ご無礼お許しください。好きな人には男女を問わず(若い女性のことが多いが)、顔を3センチくらいまで近づけて「あいさつ」をする――。この一文を、非常に恐怖に感じてしまいました。私は都内に住む30歳代の女性です。昨年の通勤時、駅の普段と違うエスカレーターを使ったところ、障害をお持ちの20歳代後半くらいの男性と乗る時に同時になりました。「どうぞ」と譲ったところ、次の日から顔を合わせるとニヤニヤされ、改札に向かう通路で私を待っていたり、すごい勢いで近づいてきたりされました。優しくされたから、顔見知りができたから、単に喜ばれているのかもしれません。ですが、狭い通路の中、知らない、体の大きな男性が急に近づいてくるという恐怖感ℤがあります。連載では「好きな人には」とあるので、付き合いが長い人との話なのかもしれませんが、私はすごく怖いと思ってしまいました。そして、その行動をよしとされている著者の方にも驚きました。男女の違いなのでしょうか。「怖い」と思ってしまう自分にも自己嫌悪です。「共生」って、とても難しい。障害者が男性の場合、どうしても体の大きさや距離の詰め方に怖さがあります。接することを諦めるしかないのでしょうか。また、関連することで、今までこんな問題があってこんな対策をしたよということがあれば、教えていただきたいです。
つづきを読む
違反報告