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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

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施設の”神対応”で待機順位トップに! ありがたいけど「それでいいのか」…特養入所大作戦(3)

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ねぎらいの言葉に涙腺崩壊

 そんなわけで何がどう作用したのかは不明なままですが、20番前後に上昇した施設では「入所直近者」となったため、次の入所者を決める「入所者判定会議」で父さんのことを話し合いたいとのこと。それまでに家族との面談が必要だというのです。

 「来月の会議に持ち越せば、1か月の猶予がありますが……」ともいわれたのですが、「いま、すぐにでも行きます!」と、早々に面談日を決めてもらいました。

 そして迎えた面談日。母さんは体調的に難しいため、私が一人で行きました。私と同年代と思われる、物腰の柔らかい女性の相談員が対応してくれました。あいさつを交わすと、再提出した申込書を手に開口一番、「よく、ここまで頑張りましたね」と、ねぎらいの言葉をかけてくれたのです。

 思いがけない一言に、これまでの日々が走馬灯のように脳裏に浮かんできて、涙腺が崩壊。気がつけば、握っていたハンカチをグショグショにしながら、母さんが倒れてからの両親の介護と育児の日々について話していたのです。

 見れば、相談員の目にも光るものが……。「状況はよく分かりました。次の会議でお父さんのことを話し合いましょう」という流れになりました。

年の瀬に猛スピードで健康診断書を入手

 ここで一つ問題発生です。会議で話し合うには、父さんの健康診断書が必要なのですが、この時点で、2019年も残りわずか。「年末で病院が混んでいますが、健康診断をすぐに受けられますか?」と、相談員がすまなそうな顔をしています。

 1か月先に持ち越しとなれば、面談に駆けつけた意味がありません。「なんとかします!」と返し、父さんが入所している老健へ自転車を走らせました。

 父さんがいる老健は、同じ建物内にある父さんのかかりつけの病院(医療法人)が運営しています。私の相談を受けた老健のスタッフがすぐに別フロアの病院の総合受付に内線で事情を説明してくれました。

 健康診断を年内に行うことは可能と聞いて、ほっとしたのもつかの間。健康診断(健康診断書の作成)には健康保険が使えないので、自己負担がウン万円になるかもしれないというのです。「年の瀬にイタタな出費~」と心の中で叫びながらも、背に腹は代えられず、お願いしました。

 特養の相談員も驚くほどの早さで健康診断書を手配し、すぐに会議で話し合ってもらった結果、「入所の順番が次になりました」と連絡がありました。ついに待機順が1位となったのです。

 老健を退所した父さんは、ショートステイに1か月間滞在した後、再び老健に入ることができ、そこで特養への入所を待っているところ。老健にはあと2か月ほどいられるので、その間に特養に空きが出るだろうと見込んでいるのですが、それも確実ではありません。まだまだ落ち着かない日々が続きます。

うちは幸運だったけど…

 こうして振り返ってみて思うことは、去年の夏に申込書を提出したまま、ただ待っていたら、今も3桁の順位にとどまっていたかもしれません。私なりにいろいろと動いてみて、状況は大きく変わっていきました。

 努力の結果、どれくらい順位がアップするかは、時の運。だからこそ、できる限り情報を集めて、いろいろやってみるべきだと、実体験により知ることができました。

 一方で、どんなに切羽詰まった状況であっても、家族が病気や高齢などで動くことができない人もいるでしょう。行政や施設に精力的に働きかける身内がいなければ、特養にはなかなか入れないような仕組みで本当にいいのでしょうか? 今回のことで、家族を介護している者として、大きな課題があることを知ったのです。(岡崎杏里 ライター)

登場人物の紹介は こちら

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認知症介護あるある~岡崎家の場合~

岡崎杏里(おかざき・あんり)
 ライター、エッセイスト
 1975年生まれ。23歳で始まった認知症の父親の介護と、卵巣がんを患った母親の看病の日々をつづったエッセー&コミック『笑う介護。』(漫画・松本ぷりっつ、成美堂出版)や『みんなの認知症』(同)などの著書がある。2011年に結婚、13年に長男を出産。介護と育児の「ダブルケア」の毎日を送りながら、雑誌などで介護に関する記事の執筆を行う。岡崎家で日夜、生まれる面白エピソードを紹介するブログ「続・『笑う介護。』」も人気。

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日野あかね(ひの・あかね)
 漫画家
 北海道在住。2005年にステージ4の悪性リンパ腫と宣告された夫が、治療を受けて生還するまでを描いたコミックエッセー『のほほん亭主、がんになる。』(ぶんか社)を12年に出版。16年には、自宅で介護していた認知症の義母をみとった。現在は、レディースコミック『ほんとうに泣ける話』『家庭サスペンス』などでグルメ漫画を連載。看護師の資格を持ち、執筆の傍ら、グループホームで介護スタッフとして勤務している。

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