健康経営の人
医療・健康・介護のコラム
「オムロンヘルスケア」 荻野勲社長インタビュー(3)国民の脳・心血管疾患発症ゼロを目指します
オムロンヘルスケアを引っ張る荻野勲社長(54)に、ヘルスケア産業の現在と未来、今後の事業展開、さらに「健康関連企業の健康経営」などについて聞いた。インタビュー最終回です。
従業員の持つ時間は有限。だからこそ健康経営を
――経営者としては、従業員の健康を守ることも重要なテーマですね。
従業員の健康維持については、「メンタル」と「フィジカル」の両面でケアをしていきます。まずは、メンタル面での健康問題が起きないことを優先したい。皆がやりがいをもって働くことができるように、会社のミッションや方向性をはっきりさせて、戦略などもできるだけオープンにします。一人一人が何のために仕事をしているかを理解できれば、不安の解消につながると考えています。また、管理職やリーダーたちにはできるだけ部下に声をかけるように伝えています。経営者ができることは従業員の心の面をしっかり見つめ、スタッフの心が折れないようにすることです。
フィジカル面では健診のメニューに大腸がん検査と動脈硬化検査を追加しています。
また、かつて弊社にも社員が「イベント」を起こすことがありました。そこで人々の健康をサポートする企業なのだから、みんなでなるべく歩くことを推奨していますし、毎年十数人の社員が京都マラソンに出場しています。社内は完全禁煙です。
あとは状況が許す限り、極端な残業をしない、させない取り組みを続けています。
オムロンには「社憲」があります。
「われわれの働きで、われわれの生活を向上し、よりよい社会をつくりましょう」
一般的に、「投資対効果」というとお金のことを指しますが、実はそうではないと考えています。何か仕事を始めるとき、いくら資金をつぎ込むかより先に、誰にやってもらうかが重要なのです。適切な人が適切な働きをし、それによって自分の生活が向上することで、結果的にお客さまの役に立つ――。
これが社憲の精神です。
人間の命は有限ですし、一日24時間しかないのは誰もが同じです。管理職には「部下の限りある時間を預かっているのだから、それをその人のために使えているかを自問自答してから仕事を依頼してくれ」と伝えています。つまり「何のために仕事を頼むのか」ですね。それが部下のためなのか、お客さまのためなのか、それとも上司の自己満足のためなのか。
従業員の「一生における限られた瞬間」を上司の指示に従って生きてもらうということは真剣に考えなければならない。上司も部下も、お互いがワクワクする仕事であればストレスにはなりません。時間が有限であることを両方が意識してほしい。そこについて、社員とディスカッションしてきました。現実には「ゴールは残業ゼロ」なんてキャッチフレーズがなくなるぐらい、残業ゼロが普通のことになればいいですよね。とにかく従業員には、本当に悔いのない仕事をしてほしいと願っています。
――従業員の方々とどのようにコミュニケーションを取っていますか?
社長就任以来、社員と1時間半ぐらい「車座」という話す機会を設けています。参加者も10人弱と少人数で、お茶を飲みながらリラックスした雰囲気の会で、現時点でほぼ全社員に参加してもらいました。入社1年目や2年目といった若い従業員と話すのも好きなんです。そこではプライベートの質問も何でもありで、みんないろいろな話をしてくれますよ。
去年、従業員に対して会社や経営層に対する意見を聞くアンケートを行ったのですが、「無記名で自分の意見を書いてください」という項目には、86%が書いてくれました。「記名で質問してくれ」とのアンケートにも150人ぐらいが書いてくれました。返事が大変でしたけどね。役員にはメールでの報告を原則禁止としています。話があれば、直接来るか電話にしてもらっています。私の席に来るときには、資料を持ってくるのもできるだけ禁止です。「紙を持ってくるなよ」と。直接話すほうが伝わるし、結果的に物事が早く進みますよね。
――企業のトップとして、ご自身の健康にはどう気をつけていますか?
単身赴任生活が長いので、野菜を多く取るなど、食事のバランスには自分で気をつけるようにしています。あとは、よく歩くようにしています。毎日、自宅から2駅分、片道25分から30分の距離を歩きますし、外出の際はできる限り歩いて移動するように心がけています。京都は坂が少ないので歩きやすいんです。
――ストレスはどのように解消していますか?
人と話すのが一番です。お酒を飲むというのではなく話すことが第一。社員との食事の場では、仕事の話もゼロではありませんが、くだらない話で盛り上がることも多いです。それが一番楽しいし、ストレス解消になります。私の考え方や価値観なども聞いてもらう機会にもなります。
そんな席で若い人から「失敗が怖い」という話を聞きます。確かに大成功すればいいけれど、残念ながらうまくいかなかったとしても「失敗という言葉はあまり使わないでほしい」と伝えます。失敗は「失う」「敗れる」と書きますね。お客さまにうそをついてしまうのは完全に失敗ですが、お客さまには申し訳ありませんが、ほとんどのことは、誠意をもって対応すれば納得していただけることがほとんどです。
いまの従業員は、自分からはみ出していくといった発想が少ないように感じます。だから、気軽に話ができる食事の場などでは、「うまくいかないこともいいじゃないか」と伝えるようにしています。夜中まで、あれこれ仕事やプライベートの話をしていますよ。
(おわり)
(聞き手・染谷 一)
荻野 勲(おぎの・いさお)
【略歴】1962年生まれ、東京都出身、1985年日本大学理工学部卒。立石電機株式会社(現オムロン株式会社)入社。2003年オムロンヘルスケア新規事業開発センター事業開発部長、06年同社執行役員、09年医療機器事業統括部長、12年Omron Healthcare,Inc.社長、14年オムロンヘルスケア執行役員副社長、2015年より同社代表取締役社長
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