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医療・健康・介護のコラム

「オムロンヘルスケア」 荻野勲社長インタビュー(1)国民の脳・心血管疾患発症ゼロを目指します

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 2016年11月、オムロンヘルスケアは1973年に初めて家庭用血圧計を発表してから、43年間で世界累計販売台数2億台に到達したと発表した。現在、世界110ヶ国以上で同社の血圧計が使われ、シェアは約46%と圧倒的だ。

 日本では国民医療費の削減が課題となっており、今後は「自分の健康は自分で守る」時代となる。健康関連企業にとってはチャンスであると同時に、責任も重くかかる。同社を引っ張る荻野勲社長(54)に、ヘルスケア産業の現在と未来、今後の事業展開、さらに「健康関連企業の健康経営」などについて聞いた。

ゼロイベントの目指す先に

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――今、日本の医療・健康分野はいくつもの課題を抱えています。高血圧は4300万人、糖尿病は1000万人以上もの患者を抱える生活習慣病大国なのに、医療費を削減しなければならない。高齢化はこれからピークを迎える一方、人口の減少は進んでいきます。健康関連企業の経営者として、現在、そして将来について、どのように考えていますか?

 急速な高齢化によって人口ピラミッドの形が大きく変わっています。このままでは介護をする側と受ける側の比率がアンバランスになり、「介護難民」が生まれる可能性まであります。

 そんな状況にどう貢献ができるかが我々の課題です。具体的な目標は、健康寿命を延ばし、介護される側の人を少しでも減らすこと。つまり、寝たきりの原因の多くを占める、脳梗塞や心筋梗塞などの疾患が起きないようにお手伝いすることです。これを「イベント(脳・血管疾患・心疾患の発症)ゼロ」と呼んで、当社の主力商品である血圧計を中心とした循環器事業分野のミッションとしています。今後は自分で自分の体をマネジメントすることが一層重要になっていきます。生活習慣病の予防はある程度は自分で可能だし、病気になったとしても、しっかりと治療をすれば「イベント」を抑えることもできます。

 そのためにも、高齢者だけではなく、20代、30代から予防していくことが大切です。企業として、そこをサポートしていくことができると考えています。

――最新の高血圧治療ガイドラインでは、病院で測定する血圧よりも家庭における血圧測定を重視しています。これは「医師至上主義」「病院至上主義」だった日本の医療では異例のことです。血圧計が主力商品であるオムロンヘルスケアにとってはチャンスであると同時に、責任も大きいですね。

 そもそも、我々が最初に血圧計を発売したときの原点は、「自分の体は自分で知ること」でした。しかし、家庭で手軽に血圧を測れるようになったことで、医学的にもいろいろなことが新たにわかるようになってきました。現在は、一日の中でどのような血圧変動が起こっているのかをリアルタイムにチェックできる機器の開発を進めています。夜、眠っている間の血圧もわかります。機器を販売するだけではなく、このデータをより広く医療に生かすために貢献することで責任を果たしていきたいと考えています。

――家庭用の血圧計はどんどん進歩しています。今後、どのような方向に進んでいくのですか?

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 血圧の変動パターンは人それぞれ異なり、個人の状態を正確に判断するためには、一日のうちでその人に合った、測らなければいけないタイミングがあります。それを逃さない機器に進歩してきています。常に身に着けておく「ウェアラブル」は一つの方向です。去年、海外の展示会で超小型の血圧計を発表しました。

 ウェアラブルなら一日に何回も測れる上に、「これは運動した後の血圧だ」「これは座っているときの数値だ」など、日常的な行動と血圧の関係を記録することができます。医学的には、血圧が大きく変動することがイベントを誘発させることなどがわかってきています。これらの機器で、何がきっかけで血圧が変動しているのかがわかるようになり、その人が注意しなくてはいけないポイントがはっきりします。

――医療機関も患者には自分でどんどん測るように指導していますね。

 そうですね。健康診断で血圧が正常の人の16.6%は高血圧であるとのデータがあります。自分で積極的に測定するようになれば、年に1回の健康診断で大丈夫と判断されている「隠れ高血圧」を逃さないようになります。一方、不整脈の多い患者さんは血圧をあまり下げるとよくないとの研究結果も出ていますので、そちらにも有効です。

――継続的に測ることが大事なのですね。

 高血圧の原因は一つではありません。それぞれの要因を自分でコントロールしなければならない。できるだけ簡単に、そして正確に測れることが重要です。

ミッションのない商品は考えない

――「ゼロイベント」の実現は大変な目標です。どうしてそんな大きなコンセプトを打ち出したのでしょうか?

 今、我々は明確なミッション(使命)のない商品は考えません。何のために商品を作るのかをはっきりさせる。つまり、商品を売ることではなく、売ることで何を実現したいのかが重要なのです。

 その中で出てきたコンセプトが「ゼロイベント」です。病院に行くと、まだ若い40代の人がリハビリをしている姿を見かけます。それを子供が応援したりもしている。もしかしたら、その人は自分の状態に注意することで発症を防げたかもしれないのです。だから、社内で議論をして、我々が目指すのは、血圧を下げることによってみなさんが脳や心臓の血管疾患を起こさないようにすること、つまり「ゼロイベント」だと決まったのです。

 これは夢かもしれません。それでも「ゼロ」を目指していきたい。

――確かに壮大な夢だと思います、一企業だけでの実現にはハードルがたくさんあります。夢に近づけるために他の業種や企業などとのコラボや協業も考えているのですか?

 考えています。ゼロイベントという高い目標は、さまざまなネットワークがなければ実現できません。例えば夜間高血圧の人には睡眠時無呼吸症候群が多いことがはっきりしています。将来的に「イベント」を防ぐためには、そちらの医師とのつながりや連携が必要になります。また、昼間は正常値だけど、早朝高血圧になる人には、処方薬の工夫も重要です。不整脈のある人にも配慮が必要です。

 これまで、健康を超えた医療の分野は、メーカーの領分ではないと考えていましたが、「ゼロイベント」という明確な目標を掲げたからには、躊躇せずに異業種や医療界も含む協創ネットワークをつくっていくつもりです。

(聞き手・染谷 一)

荻野 勲(おぎの・いさお)
【略歴】1962年生まれ、東京都出身、1985年日本大学理工学部卒。立石電機株式会社(現オムロン株式会社)入社。2003年オムロンヘルスケア新規事業開発センター事業開発部長、06年同社執行役員、09年医療機器事業統括部長、12年Omron Healthcare,Inc.社長、14年オムロンヘルスケア執行役員副社長、2015年より同社代表取締役社長

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 社員の健康を経営の重要課題に位置づける「健康経営」に取り組む企業が増えています。業務の効率化だけでなく企業イメージの向上などに効果があるとされ、国も後押ししています。健康経営を推進する企業のトップへのインタビューを随時掲載します。

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