食べること 生きること~歯医者と地域と食支援
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ホームヘルパーは食のプロフェッショナル
午後1時の訪問予約の与野健一さん(92歳、仮名)は公営のアパートで一人暮らしです。要介護状態で男一人、よく生活できるなぁ……といつも感心するのですが、ケアマネジャーをはじめとする介護職の支えあってのこと。本当に頭が下がります。予約時間ちょうどに到着し、アパートのドアブザーを鳴らすと、「は~い」と女性の声。「おや?」と思ってドアを開けると、ドアの横のキッチンにホームヘルパーの辻田さんが立っていました。
「あら、五島先生じゃないの。ごめんなさい、もう終わるから」
「あぁ、辻田さんが入っているんですね」
辻田さんはこの地域で長年ホームヘルパーをされているゴッドマザー。ヘルパーだけでなく、介護職全体のご意見番でもあります。
「もう、お昼は終わりましたか」
「えぇ、食事介助も終わったところです」
「そうでしたか。あれ、与野さんって、お食事は介助が必要なんでしたっけ。ご自分で食べていらっしゃるものだと思っていましたよ」
「えぇ、そうですよ。先生、食事介助ってお食事を口元に運ぶことだけじゃないんですよ」
「えっ」
ホームヘルパーの仕事は明文化されている
辻田さんは柔和な表情で説明してくれました。「私たちホームヘルパーの仕事って、ちゃんと明文化してあるんです。先生も身体介護とか家事援助とか聞いたことあるでしょ」
「それは聞いたことあります」
「その、身体介護の中に食事介助という条項が書かれているんですよ」
「はぁ」
「その食事介助の項目には、ちゃんと安全な状態で食べていただくよう利用者様の状況を確認し、姿勢も整えて配膳し、実際食べていただいた後も安全を確認し、清潔にして終わることって書いてあるんですよ」
「えっ、全部ですか?」
「そうよ。それが食事介助なんですよ」と辻田さんは意地悪っ子のような表情をした。
「今の今まで食事介助って食器の食べ物を口に運ぶことだと思っていましたよ」
「そうでしょ。食後の安全確認や下膳、あと環境を清潔にするところまで食事介助なのよ」と言いながらテーブルを拭き始めた。
「じゃあ、それも食事介助ですね」
「そうよぉ。私たちヘルパーってすごいでしょ」
「参りました!」というと、辻田さんは大笑い。与野さんは雰囲気を察したのか、笑顔で手をたたき始めた。
多岐にわたるホームヘルパーの仕事
「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」という厚生労働省の課長通知の存在を知ったのは最近のことです。何となくヘルパーさんの仕事って多岐にわたるなぁとは思っていたのですが、そこで、仕事の内容が明文化されているのです。その中に「食事介助」という項目もあります。
食事介助は辻田さんの説明に加えて、ホームヘルパー自身が清潔にしておくことも厳しく求められています。在宅介護現場の食のプロフェッショナルは、ホームヘルパーであると言っても過言ではないでしょう。
主治医は本人の全身状態を確認し、今食事ができる状態なのかを判断します。理学療法士などは正しい食事姿勢をサポートし、作業療法士などは適切な食具(箸やスプーン)を選びます。歯科は適切な食事形態の確認。看護師などは正しい摂食介助(声かけや口に運ぶスピード調節など)をします。ホームヘルパーは、このような専門職が行っている食にかかわる事柄に一人で気を配っています。加えて片付けまであります。
介護保険が始まって20年が経過し、ホームヘルパーの役割は少しずつ変化しています。以前より調理など家事援助の機会は減少しているという話も聞きます。しかし、在宅現場の食のプロフェッショナルであるホームヘルパーさんたちとタッグを組むことが地域の食支援には必須のように感じます。(五島朋幸 訪問歯科医)
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