産業医・夏目誠の「ハタラク心を精神分析する」
医療・健康・介護のコラム
パソコンを使って顧客対応、中高年に「テクノストレス」発生中
事務などでIT機器を使うのは当たり前になっていますが、変化のスピードは速く、中高年を中心に「テクノストレス」を抱える人が増えています。そんな事例を紹介します。年末に、ストレスチェック検査で「高ストレス状態」と判定され、医師の面接指導を希望した47歳の金融系企業、営業3課・課長補佐の江口太郎さん(仮名)です。
IT機器やソフトの変化についていけない
私 :メンタル系産業医をしています。江口さんのチェック所見です。1.仕事の裁量権が減少、2.心身に症状、3.上司のサポートがない……の3点が指摘できます。
江口さん:思い当たることばかりです。
私 :自覚があるのですね。
江口さん:そうです。恥ずかしいですが……。
(言いたいことがあるのか、ためらっているので)
私 :医師は守秘義務がありますので、お話しください。多少なりとも楽になりますよ。
江口さん:(意を決して) IT機器がどんどん変わってきて、ぼやぼやしていたら脱落です。身につくように、懸命に努力していますが。
私 :進化し続けているからね。
江口さん:私の仕事は顧客相談がメインですが、今は仕事の進め方が変わって……。
私 :今は?
江口さん:パソコン1台、多くの金融ソフトを使いながら、説明します。
私 :そうか。
処理が遅いと、客がイラッとする
江口さん:入力業務が多く、迅速な処理が要求されます。少し遅いとイラッとするお客様が多くて。もともと私は機械が苦手なので、休日出勤して練習しました。
私 :努力した。
江口さん:イラッとしたお客様から、「わかったから、もういい」と言われてしまいます。
私 :つらくなるのは、お客がイラッとした時だけですか?
江口さん:入力ミスをした時です。せかされると焦ります。それでミスする。パニクって、頭が真っ白です。
(涙が、こぼれています)
私 :焦りが、ミスを呼ぶのでしょうね。
江口さん:どうしようもなくなります。パソコン操作するのが怖くなります。どうしたら、良いでしょうか?
テクノ不安症の特徴がくっきり
私 :お話を聞いていますと、「テクノ不安症」ですね。「テクノストレス症候群」の1タイプです。OA機器やソフトの操作などがうまくいかず、不安や恐怖感が生じ、パニックになる状態を言います。1980年代にアメリカの心理学者であるクレイグ・ブロードが命名し、「テクノ不安症」と「テクノ依存症」の2タイプを提唱しました。「テクノ依存症」は、今でいえば「ゲームおたく」です。
江口さん:テクノ不安症ですか。私のような中高年者に多いのでしょうか?
私 :そうです。特に男性に多いですね。スマホになじまない世代でしょうか。
江口さん:どうすれば、良いのですか?
私 :しばらく仕事から離れ、休養を取ります。
江口さん:そうします。
私 :心身の疲れやストレスを休養で癒やす。気持ちが落ち着いていきますから。その後に、対応を検討します。今日はストレスチェックの面談なので、ここまでにします。次は、私の診察を受けてくださいね。
江口さん:わかりました。
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