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山崎まゆみの「心もとろける癒やしの温泉」

健康・ダイエット・エクササイズ

温泉旅行での親孝行は、かけがえのないもの

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 世界中の温泉を訪ね、宿泊施設を取材して20年以上がたちましたが、私には大きな後悔があります。2012年、身体の不自由だった妹を温泉に連れて行けずに、見送ってしまったことです。

 この後悔が原動力となり、今では「バリアフリー温泉」を取材し、伝えることをライフワークにしています。

 ただ、気付けば父は79歳、母が74歳。まだまだ元気でいてくれますが、いまも実家がある新潟で暮らす両親の「介護」を意識し始めています。

 そんな思いもあって、昨年12月には、「行ってみようよ! 親孝行温泉」(昭文社)を出版しました。「リーズナブルに泊まれる親孝行温泉」として、「休暇村」「かんぽの宿」のルポを特集したほか、東北から沖縄まで、足腰の弱い高齢の方を安心してお連れできる温泉宿を紹介しています。

旅はリハビリ――。温泉で元気になった父

 さて、一昨年、父が半年間ほど入院しました。ふさぎこむ父に、「治ったら、温泉に行こうね」と語りかけました。3週間ほどベッドにいると、足の筋力が弱まります。一時期は歩行困難になりましたが、父自身が病院内で歩く練習に励んでくれたこともあり、杖があれば歩ける「要支援1」まで回復しました。

 そのタイミングで、医師から一時外出の許可をもらい、父を病院から連れ出し、近くの温泉宿の日帰り入浴プランを利用して、「親孝行温泉」をしたのです。

温泉旅行での親孝行は、かけがえのないもの

両親と一緒に温泉旅行。つかの間の親孝行です

 バリアフリー温泉を提唱してきた私としては、父の入浴介助をするつもりで、バリアフリー対応の貸し切り風呂を予約しました。しかし結局、利用することはなかったのです。

 父が、「おらは、でっかい風呂に入る」と言い張り、杖をつきながら、ひとり大浴場に向かいました。母と私と父と3人で温泉に行ったこの時に、異性介助の難しさを思い知りました。男性の大浴場に父1人を行かせる不安――。

 母と私の心配をよそに、父は「いい湯だったな~」と、大浴場から出てきました。その顔は、つやつや。頬を赤らめた父の表情は、赤ちゃんのような純真さ。

 おまけに、「お父さん、杖は?」と聞くと、「あ、忘れてきた」と、脱衣所に戻る有りさま!

 うそみたいな、本当の話です。父は希望通りの「大きなお風呂に入る」ことができて、ご満悦でした。

温泉旅行での親孝行は、かけがえのないもの

湯田上温泉ホテルの小柳では、居心地のいいラウンジにも段差はほとんどありません

 それからお昼ごはんを頂き、お世話になっている病院スタッフへのお土産を抱えて、父は入院先に帰っていきました。

 「旅はリハビリ」を体現してくれたのでしょう。それ以降、父の回復は目覚ましく、めでたく退院となりました。その後、「旅館に泊まりたい」という父の望みもかなえるべく、1泊で旅にも出ました。

ちょっとしたコツで、温泉での親孝行が快適に

 1泊でお世話になったのは、父がお気に入りの新潟県湯田上温泉ホテル小柳でした。リニューアルしたばかりのユニバーサルルームがあります。竹材を使ったスタイリッシュなお部屋です。眺めのいい貸し切り風呂もあります。要支援1の父も、なんの不安なく、寛ぐことができました。

温泉旅行での親孝行は、かけがえのないもの

完全バリアフリーのユニバーサルルーム。高齢者もここなら安心です

 はじめての親孝行温泉では、心配しすぎました。こちらの心配を父に押しつけるのではなく、本人の希望を最大限に叶えてあげることが「親孝行温泉」の肝なのだと教えられました。反省点は数あれど、思い出深い旅となりました。

 そんな経験から、読者の皆さんにも、ぜひ「親孝行温泉」に出かけていただきたいと思い、その際の簡単な注意点を記します。

宿選び
 バリアフリールームの有無など、ネット上の情報だけで判断せずに、宿に電話連絡をして、直接確認するのがコツです。
 宿選びには、「使いやすい部屋」「多機能トイレ」「入りやすいお風呂」を条件にするといいですよ。
 身体の状態は人それぞれです。右まひのある人にとっては、右側に設置された手すりは邪魔なだけです。ひょっとしたら、バリアフリールームよりも、ベッドが置かれた広い洋室の方が使いやすいケースもあります。相談した時に、丁寧に対応してくれる宿かどうかも宿選びの大切なポイントです。

重要なのは宿の動線
 館内の動線を把握してください。「玄関からバリアフリールームまでの動線」「部屋のドア幅」「宿の中に段差や階段はあるか。ある場合はエレベーターやスロープなどの段差回避の方法はあるか」「バリアフリールーム内の構造」などの確認が必要です。
 そして親の身体の状態を宿に伝えておくといいですよ。受け入れに慣れている宿だと、備品の準備をしておいてくれる場合もあります。

宿にあるとうれしい備品の確認
 入浴を目的とする場合は「貸し切り風呂があるか」、「入浴サポート用のシャワーチェア(キャリー)があるか」などを確認しておくといいでしょう。
 今年は例年より、春の訪れが早いようです。まだまだコロナウイルスが心配ですが、落ちついたら、ぜひ「親孝行温泉」を実現してください。

湯田上温泉

湯田上温泉 ホテル小柳
【 所在地 】〒959-1502 新潟県南蒲原郡田上町湯田上温泉
【 電 話 】0256-57-5000(代)
【 泉 質 】ナトリウム塩化物泉
【 効 能 】皮膚病、婦人病、消化器病、神経痛、(飲用で)糖尿病、肥満症など
【アクセス】JR信越線 田上駅から車で5分(無料送迎あり)
【ホームページ】https://www.oyanagi.co.jp/index.php

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yamazaki_mayumi_prof

山崎まゆみ(やまざき・まゆみ)
温泉エッセイスト、ノンフィクションライター、VISIT JAPAN大使、跡見学園女子大学兼任講師。世界32か国1000か所以上の温泉を巡り、「温泉での幸せな一期一会」をテーマに各メディアでリポートしている。『続・バリアフリー温泉で家族旅行』(昭文社)等著書多数。最新刊は『行ってみようよ! 親孝行温泉』(昭文社)。内閣官房東京オリンピック競技会・東京パラリンピック競技会推進本部事務局「ユニバーサルデザイン2020関係府省等連絡会議 街づくり分科会」「ユニバーサルデザイン2020評価会議」に参画し、日本の「バリアフリー温泉」の推進に力を注いでいる。温泉情報はTwitter、FB、インスタグラムで更新中。

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1件 のコメント

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健康管理

ふじのはな

70歳を過ぎると、体力的にも足腰も 弱ってきて更に運動不足にもなり、 少しでも改善できればと想い計画し 取り組んで行きたい。

70歳を過ぎると、体力的にも足腰も
弱ってきて更に運動不足にもなり、
少しでも改善できればと想い計画し
取り組んで行きたい。

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