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のぶさんのペイシェント・カフェ 鈴木信行

医療・健康・介護のコラム

治療法を最後に決めるのはだれか?

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医師も専門分野には詳しいかもしれないが……

 「『メディアに流れている医療や健康に関する情報が正しいかどうかを、医療には素人の患者が見極めるのは簡単なことではない』『自分だけで判断しようとせずに、薬剤師をはじめとした身近な医療者に相談するとよい』って、のぶんさんは先日言っていましたよね?」

 春の暖かさを感じる夕刻。今日も仕事を抜け出して、カフェのカウンターに座り、オーナーののぶさんを相手に、コーヒーを飲みながらゆったりとした時間を過ごしている。

 「でも、医療者だからといって、だれもがそんなに幅広い知識をもっているんでしょうか? 自分の専門分野については詳しいのはわかるけど」

 ちょっと意地悪な質問をのぶさんに投げかけてみた。

 コーヒーカップを拭き上げながら、のぶさんは私に言う。

 「いやぁ、医療者だって人間ですし、思い込みも、知らないこともたくさんありますよね。相手も人間だという意識が私たちには大切だと思うんですよ」

 そりゃそうだ。医師も薬剤師も医療者といわれるけど、人間だ。それぞれに、人としての生活もあるし能力の限界もある。人間性だって、必ずしも完璧なはずはない。

「治療する必要はない」に仰天

 「3年ぐらい前ですけどね……」

 のぶさんが、ある体験談を語り始めた。

 のぶさんはその頃、甲状腺がんの診断が確定し、肺などへの転移がみられる状態だった。かかっていた病院の医師からは、ある治療法が示された。治療法を決めるにあたっては、他の医師の考え(セカンドオピニオン=第2の意見)も聞いてみようと、当時有名だった医師の元へ「セカンドオピニオン」を求めて、受診してみたそうだ。

 「するとその医師は、私から病状の説明を聞いたうえで、私に『治療する必要はない』との診断を下しました。具体的には、(1)がんであることを忘れる(2)がんに関する検査を受けない(3)治療を勧める医師に近づかない――ことだというんです」

 5年生存率という、診断から5年後の生存割合を示すデータを使った説明もあった。ところが、「5年生存率は治療をしてもしなくても同じであり、だったら治療は不要」という意見だったと言う。

 「さすがに、それはオカシイと思ったんですよ。そもそも甲状腺がんは、ゆっくりと進むがんだから、離れた臓器にまでがんが転移している状況であっても、5年以上は生きられると思うし……」

まずは公的機関の医療情報を調べよう

 その医師もれっきとした医師ではあるものの、人間である以上、医師にも様々な考え方を持つ人がいるということだろうか。

 「医療者の提案に不安を感じたら、どう判断すればいいんですかね?」

 のぶさんに尋ねてみた。ちょうど、腰痛の治療のために病院を探している母にも関係してくる話だ。

 「どのような医療や生き方を選択してもいいけど、納得はしたいですよね。私だったら……」

 のぶさんが三つの提案してくれた。

(1)公的機関が出している情報を探す

 たとえば、がんの分野であれば、「国立がん研究センター」に代表される、公的な機関が提供している情報は、いまの日本で標準とされている場合が多い。一方で、クリニックや個人として提供されている場合は、第三者のチェックや指摘も入りにくい傾向があり、信頼性という意味では弱いらしい。

(2)複数の医療者へ相談する

 薬局の薬剤師も相談相手としてはよいし、自費になるが「セカンドオピニオン」として、他の病院の医師に聞くのもよい。どこの病院に行けばいいかわからない場合は、インターネットで【病名】【地域】【セカンドオピニオン】で検索すれば、探せる可能性が高いそうだ。

治療法を最後に決めるのはだれか?

筆者がセカンドオピニオン外来で医師から渡されたメモ

(3)最後に決めるのは自分という覚悟を持つ

 心配してくれる家族や友人の意見や情報はありがたいが、医療的な知識があまり豊富ではなく、思い込みなどもあって、危うい場合もある。それらを踏まえたうえでの、患者の心構えとしては、どのような決断であっても、最後に決めるのは自分。その覚悟が必須だとのこと。

「ごちそうさま」

 仕事に戻らなければならない時間が迫っている。店を出ると春の南風が強く吹いていた。覚悟という言葉が深く刺さってくる。

 自分は、自分の体について、覚悟を持って決断しているだろうか。さすがに、病気を持った母に、覚悟という言葉は言いづらい。「一緒に考えよう」と母に声をかけて、治療法に関しインターネットを使って、探してみようか。

(鈴木信行 患医ねっと代表)

 下町と言われる街の裏路地に、昭和と令和がうまく調和した落ち着く小さなカフェ。そこは、コーヒーを片手に、 身体(からだ) を自分でメンテナンスする工夫やアイデアが得られる空間らしい。カフェの近所の会社に勤める49歳男性の私は、仕事の合間に立ち寄っては、オーナーの話に耳を傾けるのが、楽しみの一つになっている。

(※ このカフェは架空のものです)

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鈴木信行(すずき・のぶゆき)

患医ねっと代表。1969年、神奈川県生まれ。生まれつき二分脊椎の障害があり、20歳で精巣がんを発症、24歳で再発(寛解)。46歳の時には甲状腺がんを発症した。第一製薬(現・第一三共)の研究所に13年間勤務した後、退職。2011年に患医ねっとを設立し、より良い医療の実現を目指して患者と医療者をつなぐ活動に取り組んでいる。著書に「医者・病院・薬局 失敗しない選び方・考え方」(さくら舎)など。


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