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「教えて!ドクター」の健康子育て塾

妊娠・育児・性の悩み

たばこは「屋外」「換気扇の下」なら安心?…子どもへの影響

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子どもがいないところで吸えば大丈夫?

 では、「喫煙は外ですれば大丈夫」「子どものいないところで吸えば大丈夫」という考え方はどうでしょうか。最近、副流煙が、服やじゅうたん、カーテン、ソファ、衣類に染み込み、それが健康に害を及ぼす「残留受動喫煙」が注目されています。小さな子どもは、カーペットやソファに触れたり、近い位置で過ごしたりすることが多く、長期的に見れば、直接喫煙と同様の影響を受けることが分かってきました。先ほど紹介したコチニンの研究でも、屋外のみで喫煙している保護者の子どもの尿から、禁煙家庭の2倍の濃度の成分が検出されています。その理由には、煙の成分が保護者の吐く息に含まれていたり、衣服に付着していることが考えられます。子どもがいないところで吸えば大丈夫、というわけでもなさそうです。

加熱式たばこは?

 新型たばこはどうでしょうか。日本では、「加熱式たばこ」が販売されています。「加熱式たばこに変えたから大丈夫だよ」という声も時々耳にします。本当でしょうか。

 加熱式たばこは、従来の紙巻きたばこのように、葉に直接、火をつけるのではなく、葉を含むスティックやカプセルを加熱し、ニコチンなどを含んだ蒸気を発生させて吸うものです。メーカー側は、従来の紙巻きたばこと比べ、有害化学物質が90%以上低減されていると宣伝しています。一見、健康への影響が低そうな表現ですね。しかし、これには注意が必要です。たばこのリスクについて141本の研究をまとめた論文 9) では、心臓の病気(冠動脈疾患)や脳卒中が起きるリスクは、1日1本しか吸わない場合でも、1日20本吸った場合の40~50%くらいにしか減らなかったとしています。

 つまり、本数を20分の1にしても、健康リスクは20分の1にはならないということです。メーカー側の言うとおり、有害化学物質が90%以上低減されていたとしても、健康リスクが90%少なくなったわけではないのです。紙巻きたばこと同様、加熱式たばこにもニコチンや種々の発がん物質が含まれていることに変わりありません。葉の部分のニコチン濃度は、紙巻きたばことほぼ同じという報告がありますし 10) 、加熱式たばこが、長期的にどんな影響を健康に及ぼすのかも、現時点ではデータがまだまだ少ないのです。「安全です」とは言えません。

誤飲の恐れは大きく

 もっとも、小児科医の立場からは、むしろ次の二つの点で、非常に問題だと考えています。

 まず、煙が出ないため、発生する有害物質が目に見えず、周囲が受動喫煙を避けられない点です。紙巻きたばこから新型たばこに切り替えた人の25%が、それまで喫煙していた場所を屋外から屋内に移す傾向が報告されています 11) 。より受動喫煙のリスクが高い屋内喫煙に戻ってしまうのは本末転倒です。

 次に、誤飲のリスクが大きい点です。加熱式たばこのニコチン含有密度は、従来のたばこよりも高く、カプセルも小さいです。これまでの紙巻きたばこでは、乳児が1本丸ごと食べてしまうことはまずありませんでしたが、加熱式たばこのスティックは、4.5センチメートルと従来のたばこよりも短く、カプセル型は2.5センチメートルです。そのため子どもの口に容易に入ってしまい、誤飲するリスクは、従来のたばこよりも高いのです。実際、近年は、加熱式たばこの誤飲事故は急激に増加しており、日本中毒情報センターの集計では、2017年後半には、紙巻きたばこの誤飲事故件数を上回っています 12)

妊娠・出産には全面禁煙を!

 たばこを誤飲した場合、ニコチン中毒のリスクがあります。吐いたり、ぐったりしたり、場合によってはけいれんや命の危険もあります。国民生活センターの調査 13) では、加熱式たばこの全ての銘柄で、1本分のたばこ葉には、少なくとも 嘔吐(おうと) を引き起こす恐れのある量のニコチンが含まれていたと報告されています。

 先ほども述べたように、加熱式たばこを使うと、吸う場所を家の中に変更する方が増えます。また、加熱式たばこの葉の部分は、紙巻きたばこのように灰にならず、加熱後も残り、吸い殻がそのままゴミ箱に捨てられることから、子どもがゴミ箱から取り出して誤飲する危険も指摘されています 14)

 子どもがいるご家庭はもちろん、これから妊娠・出産されるご家庭では、たばこは加熱式も含めて全面禁煙とし、少しでもお子さんを守る環境を整えていただければと願っています。(坂本昌彦 小児科医)

参考文献:

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坂本昌彦(さかもと・まさひこ)

 佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長
 2004年名古屋大学医学部卒。愛知県や福島県で勤務した後、12年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。13年、ネパールの病院で小児科医として勤務。14年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本国際小児保健学会に所属。日本小児科学会では小児救急委員、健やか親子21委員。小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。現在は、保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務めている(同プロジェクトは18年度、キッズデザイン協議会会長賞、グッドデザイン賞を受賞)。

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