前立腺がん
シリーズ
みとりの物語(5)がんの夫 最期は自宅で
幸崎 順子さんにとって、夫の 啓也 さんと過ごした最期の半年には、思い出が詰まっている。その体験が後の日々を支え、現在の自分自身を形作ってきた。
啓也さんに前立腺がんが見つかったのは2005年、57歳の頃だ。すでに大腸や骨に転移。告知されて帰宅したとき、啓也さんは号泣した。幼なじみだった同学年の妻に、泣き顔を見せたのは初めてだった。
手術や抗がん剤治療も受けたが、まもなく手の施しようがなくなった。「やるだけやりました。ご自宅でゆっくりお過ごしください」。病院の医師の言葉に、幸崎さんも不安でいっぱいになった。「具合が悪くなったら来てもいいですか」。遠慮がちに尋ねると、「来ても治療できないです」。とりつく島もなく感じた。
当時、住んでいた東京都小平市に、在宅緩和ケアを手がける「ケアタウン小平クリニック」があることを知った。ホスピス医として知られた山崎 章郎 さんが、自宅で最期を迎える人を訪問診療で支えようと、開業したばかりだった。
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