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思春期の子どもを持つあなたに 関谷秀子

医療・健康・介護のコラム

第14部 思春期の父と娘、母と娘(下)思春期の難しさを、回避すること…。裏目に出た、親の気遣い

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「汚い」と、父親に除菌スプレーを

 思春期になると、父親に対する娘の態度が大きく変わることは特別なことではありません。とはいえ、その原因はさまざまです。

 A子さんとは別の中学1年生B子さんの場合、はるかに激しく、あからさまな嫌悪の感情を出していました。ある時期から、父親に対して、「汚いから寄らないでよ」「臭いから家の中ではマスクをして!」と命じ、除菌スプレーをかけたりもするようになってしまいました。

 よく話を聞いてみると、B子さんの家庭では、父親の日常的な行動に問題がありました。

 母親と不仲だった父親は、B子さんに「お父さんと結婚してよ」と言ったり、「再婚するならこういう人だな」と好きなグラビアアイドルの水着の写真集を見せたり。B子さんに、膝枕をせがんでいたりしていたこともあったそうです。

 思春期になったB子さんが、父親の性的な部分を目の当たりにしたことで、このような反応を起こしていると考えられました。

 クリニックにやってきた父親に対し、そのような行動をやめるように、親ガイダンスで話しました。自分の不適切な行動にようやく気付いた父親は、娘に対する軽薄な行動を慎むようになりました。それにつれて、B子さんの嫌悪行動も、少しずつ減っていったとのことです。

「友達の間で居場所がない」と感じ始めた娘

 さて、A子さんの話に戻ります。

 A子さんには、学校の親しい友達が2人いました。いつも3人一緒の「仲良しグループ」でしたが、A子さん本人は、母親に「その一人から冷たくされている。嫌われているようでつらい。居場所がない感じがする」と相談しました。

 しかし、具体的になぜそう感じるのかについて母親が尋ねても、「なんとなく」「自分の居場所がない感じ」などと、漠然とした答えしか返ってきません。A子さんが不登校になってしまったらどうしようかという不安も、母親が来院した理由の一つでした。

 母親の話を聞いて、私はA子さんの家庭での親子関係を巡る気持ちと、友達グループ内での不安は別々の問題ではないと感じました。

 「いいかげんにしてほしい。あなたのせいで家の雰囲気が悪くなった」と母親に言われたこと、それに父親にも避けられていると感じたことで、A子さんは家庭の中で自分は嫌われてしまったのではないかという心配をしたのでしょう。それを、無意識のうちに友達に嫌われているとの心配事に置き換えて、母親に話していると理解することができました。

 父親に対して、不合理な態度を取っていることを自覚しているA子さんは、客観的に自分自身を見て、「お母さんに嫌われているのではないか」「むしろ、私がお父さんに避けられているのではないか」などと考え、家庭内で自分が孤立しているとの不安が募っているのではないか、と。

 そんな複雑な感情が、あまり根拠がないのに、「友達から嫌われてしまっている」と感じさせている。これは、家庭内の問題を、友達の問題に置き換えて、母親に話しているのではないかと思ったのです。

 女の子にとって、母親は最も身近な大人の女性モデルです。

 思春期に入り、女性として成長していく過程で、そんな自分の母親に対する競争心が芽生え、なにかと張り合ってしまうことがあります。

 一方、異性としての身近な存在である父親に対しては、心のどこかで女性としての自分自身を認めてほしい、父親に気に入られる女性でありたいという気持ちも生じます。

 しかし、母親への競争心が強くなりすぎたり、父親に気に入られ過ぎていると感じる場合には、母親に嫌われたり、母親の愛情を失うのではないかと心配になることがあります。また、父親に認めてもらえない場合には女性としての自分自身に自信が持てず、前に進みにくくなるのです。

両親の気遣いが裏目に出たら

 中学生になるまでは、A子さんと父親は非常に良い父娘関係を築いてきました。

 娘思いの父親は、思春期に入ったA子さんの言動に理解を示そうと、自分が一歩引くようにしました。本当にやさしいお父さんです。

 とはいえ、A子さんにはそんな好意的な態度は、かえって負担になり、重く感じられたことは想像できます。中学生は、親に対する自分の言動が理不尽だったり、単なるわがままだったりすることは認識できる年齢です。

 「悪いのは自分」なのに、一方的に引いてくれる父親――。自分の言動が生み出している矛盾に直面してしまうのです。

 そんな折、自分の理不尽な態度に対して、母親から「いいかげんにしなさい。あなたのせいで……」と一喝されました。自分の言動に問題があることを自覚していたA子さんが、もっとも身近な女性モデルだったお母さんから「嫌われてしまった」と感じれば、別の不安が高まっていくのは当然です。

 幸いなことに、友達への不安を訴えたことに対して、母親は、「A子の考えすぎじゃないの? あまり気にしなくていいと思うよ」と返したそうです。

 A子さん自身、友達のことを介して、母親に対する心配だったのであれば、当の母親からの一言は、どれほど心に安らぎを与えてくれたかは、想像に難くありません。

 次の診察には、母親と一緒に父親も来院しました。これから、両親がどう接していけば、思春期のA子さんの成長に望ましいのかについて相談しました。

 この両親のいいところは、自分の行動、それがもたらした結果をきちんと振り返り、それを今後に生かそうと考えられることでした。

 たとえば、父親は、「娘に対するやさしさの表れ」だったとはいえ、一方的に引いたことが、A子さんにどう影響してしまったかについて、すぐに理解してくれました。

 母親のほうも、「家庭内における気遣い」ではあったものの、先走りして、父娘の接触を遮断したことで、結果的に家の中に影を作ってしまったことを認識しました。

子どものために親がすべきことは

 結局、両親は、A子さんが思春期という難しい時期にいることは理解していても、それに向き合わずに、回避して乗り越えることが、娘に対する思いやりと考えていたのです。そんな気遣いが、かえってA子さんに余計な不安を与える結果になってしまったわけです。

 まずは、ご両親がA子さんの自然な気持ちを尊重し、当たり前の日常生活を送っていくことを目標にしました。

 ただし、あらかじめA子さんに対して、「両親ともに、A子さんに気を使い過ぎずに普通に生活していく。逆にA子さんも気を使う必要はなく、気分が乗らないときには、無理に親に合わせる必要はない」と伝えました。

 そして、こうも言いました。

 「また、お父さん、お母さんと一緒に食事をしてもいいかなと思ったら、そう伝えてほしい。そんな日が来るといいなと思っている」

 A子さんも、はっきりとうなずきました。

母親のように価値のある自分を作ろうと

 思春期の親子関係は、それまでとは違って、難しい場面がたくさん出てきます。

 こじれてしまった母娘関係をなんとかしようと、クリニックにいらっしゃる方も少なくありません。

 思春期になると、娘は母親と同じ以上に価値のある自分を作ろうと、それに向けて努力を始めます。その流れの中で、母親に反発したり、ケンカを仕掛けたりもします。

 いわば、それは娘からの挑戦であり、母親にしてみれば、腹立たしかったり、ハラハラしたり、悲しくなったりの連続になる場合もあります。心身ともに、消耗してしまうことだってあると思います。

 それでも、場当たり的な母娘のけんかは避けたほうが賢明です。同じ土俵に立ってしまうと、その場限りの感情のぶつけ合いばかりになり、収拾するのが難しくなっていきます。

 娘から、面と向かって批判をされたとしても、まず母親はそれについて考えてみる。批判が妥当であれば、ちゃんと認める。そうでなければ、簡単に妥協したり、同意したりしない。

 たやすいことではないかもしれませんが、常に冷静な態度と判断力が必要です。

 なかなか解決の糸口が見つからなかったり、感情的なけんか喧嘩の連鎖から抜け出せなかったりしたら、ぜひ専門家に相談してみてください。

 きっと、解決に向けたヒントが見つかるはずです。(関谷秀子 精神科医)

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shisyunki-prof200

せきや・ひでこ
精神科医、子どものこころ専門医。法政大学現代福祉学部教授。初台クリニック(東京・渋谷区)医師。前関東中央病院精神科部長。

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2件 のコメント

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通りかかったきじとらみーちゃん

いつも興味深く拝読させていただいております。 コラムを読んで思ったのは、思春期の女の子とその父親の距離の取り方は、非常に難しいのだな、と思いまし...

いつも興味深く拝読させていただいております。
コラムを読んで思ったのは、思春期の女の子とその父親の距離の取り方は、非常に難しいのだな、と思いました。
文中のA子さんのお父さんはとてもやさしいのに、それがA子さんに伝わらない。
お母さんの気遣いも、逆効果になってしまう。
そして、当のA子さん自身も、友達に嫌われていると思ってしまう。
なんだか、家族全員が負のスパイラルにおちいってしまっているように感じました。
しかし、専門の先生に相談することで、この一家が一歩前へ進めたように思えました。
いつか、A子さんがふたたびご両親と仲良く過ごせる日が来ればいいな、と思いました。

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きじとらみーちゃん

毎回、興味深く拝読させていただいております。 文中のような家庭の問題が起きると、家族の中の誰かが悪いからだ、と決めつけてしまいがちですが、実際に...

毎回、興味深く拝読させていただいております。
文中のような家庭の問題が起きると、家族の中の誰かが悪いからだ、と決めつけてしまいがちですが、実際には誰かが悪いわけではない。
子どもが成長する際に、多かれ少なかれ、誰もが通る道なのかな、と思いました。
僕自身は子どもはおりませんが、自分自身の中学生の頃などを思い返すと、両親に強く当たったり、困らせてしまったり、甘えてばかりの息子で、今思い返すと反省という言葉しかありません。
しかし、この記事を読んで、僕自身が大人になるために必要な過程だったのかな、と思うことができました。
そして、文中のA子さんが、またご両親と一緒に食事を食べれる関係に戻れれば良いな、と思いました。
そうなれば、A子さんのご両親にとっても、何より喜ばしいことなのではないかな、と思いました。

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