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思春期の子どもを持つあなたに 関谷秀子

医療・健康・介護のコラム

第14部 思春期の父と娘、母と娘(上)リビングでも食卓でも、父親を無視。両方に気を使っていた母親の鬱憤も爆発して。中1女子

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 思春期に入った女の子と父親の関係は、家庭内における永遠の課題なのかもしれません。このコラムの最終回は、普遍的ともいえるこのテーマを取り上げたいと思います。

やさしい父親を「思いやりのない人間」と

 A子さんは東京近郊に住む中学1年生です。中学に進学した頃から父親を嫌がり、避けるようになったため、心配した母親がクリニックに来院しました。

 母親は「こんなことで相談にきていいのか……」と 躊躇(ちゅうちょ) しながら、「A子が中学生になってから、父親に対して、突然、ひどい態度を取るようになりました。2人に対して、自分はどう対処したらいいかわからないんです」と切り出しました。

 実は、小学生までは、A子さんと父親は仲良しでした。父親を極度に避けるようになったのは、中学生になってからです。程度の差こそあれ、思春期の娘がいる家庭では、珍しいケースではありません。

 たとえば、リビングでテレビを見ているとき、仕事から帰ってきた父親がA子さんの隣に座ろうとすると、あからさまに嫌な顔をして自分の部屋に行ってしまいます。母親と2人で食事をしている最中に、帰宅した父親がテーブルについたとたん、大急ぎで食べ終えて、無言で自分の部屋に入ってしまったりもするそうです。

 母親に対して、「あの人(父親)は、人の気持ちがわかっていない。思いやりのない人間」など、強い口調で父親の非難もしていました。

母親は、家の中で父娘が遭遇しないように配慮したが

 素顔の父親は、やさしくて、穏やかな性格です。A子さんが生まれてから、ずっと目に入れても痛くないほどかわいがってきました。そんな自分の娘の突然の 豹変(ひょうへん) ぶりに、傷つかないはずがありません。

 それでも、A子さんの言動を注意したり、叱ったりすることはしませんでした。むしろ、娘が好きなテレビを見たり、ゆっくり食事ができたりするようにと、自分の書斎にテレビや机を新たにそろえ、なるべくそちらで過ごすように配慮をするようになったそうです。

 また母親も、洗面所で2人がばったり出会わないようにと、「今はA子が顔を洗っているから、お父さんはあとにして」など、家の中で2人が遭遇しないように、気を使うようになりました。

 そのうち父親にも、娘に避けられているダメージが蓄積していきます。落ち込むことが増え、だんだんと元気がなくなっていきました。

 そんな父親の姿は、母親の心にも、重くよどんだ感情となっていきました。

 A子さんをめぐって、いつも両親がピリピリとするようになり、家の中が重苦しい雰囲気になってきたのも無理はありません。

母親の怒りに驚いた娘

 ある日のことです。

 母娘で、テレビのニュース番組を見ていたとき、A子さんから「お母さんは主婦だから、世の中のことがわかっていない」ときつい口調で批判されました。その瞬間、母親の心の中で、日ごろの 鬱憤(うっぷん) が爆発しました。

 「いいかげんにしなさい! あなたのせいで、家の中の雰囲気が悪くなっているのがわからないの?」と叱りつけたそうです。

 A子さんは、母親の突然の怒りが予想外だったのでしょう。少し困った顔をして、何も言い返さずに、自分の部屋に入ってしまったそうです。

 思春期に入って女性らしくなると、自然と女の子は「父親とはあまり近くなり過ぎずに、一定の距離感を保って接したい」と感じるようになります。

 それが、「お父さん臭い」「あっち行って」「洗濯物は別にして」と、きつい言葉となって出てくることがあるのです。もちろん、父親を本当の意味での不潔な存在と考えているわけではなく、思春期の女の子独特の、異性に対する距離の取り方と考えればいいのです。

 言い換えれば、どんなにきつい言葉を言われたとしても、父親は「自分は娘に嫌われている」と言葉通りに受け取って、深く落ち込む必要はないのです。

 しかし、現実には娘の鋭い口調に意気消沈したり、反対に「娘の無礼を許さない」と怒って、クリニックに相談にやってきたりする父親もいます。

 A子さんの家では、両親の過剰な気遣いが逆効果を呼んでしまったようです。

 「嫌われているから」との誤解に基づいて、娘を気遣った父親が自室で食事をするようになったり、母親は頼まれてもいないのに、気を利かせたつもりで、家の中で父とA子さんが顔を合わせないように配慮したり。

 これらが、逆に事態を複雑化させてしまいます。

 最初は、娘の感情に配慮したつもりかもしれません。それが、逆に両親にとって負担となっていったのです。特に母親は、「気遣い疲れ」が蓄積し、次第に小さなことでA子さんと言い合いをすることが増えて、いらいらを募らせるようになっていました。

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せきや・ひでこ
精神科医、子どものこころ専門医。法政大学現代福祉学部教授。初台クリニック(東京・渋谷区)医師。前関東中央病院精神科部長。

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