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訪問診療にできること~最期まで人生を楽しく生き切る~ 佐々木淳

もっと知りたい認知症

積極的治療は不要の指示書を残した98歳、まさにその時「死にたくない」の訴え

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状況によって気持ちは変わる……人生会議は決めておくのが目的ではない 

 人生会議は何かを決めておく、ということを必ずしも目的としていません。とにかく、話し合いを重ねていく。その中で、その人の人生観や価値観を理解・共有している人がまわりに生まれます。もし、本人による判断が難しい状況になっても、まわりの人たちが、本人の優先順位や判断基準に基づいて代理意思決定をすることができるようになるはずです。

 医療やケアの選択にあたっては、もちろん専門家からの情報提供が欠かせません。ここから先、どのように体調や病状が推移していくのか、具体的に変化がおこるのか、その時にどんな対処法や選択肢があるのか、それをするために何が必要なのか、今から準備しておけるものは何か、このようなことを一緒に考えていきます。

 もちろん、決められるのであれば、あらかじめ決めておいてもよいと思います。しかし、Sさんのように、気持ちは状況によって変わります。体調が悪化した時、人生が最終段階に近づいてきたとき、私たちの気持ちは変化するのです。「揺らぐ」と表現されることもありますが、新しい情報が入ることで、状況判断が変わるのは当然です。

 人生、最終段階に近づけば近づくほど、徐々にそこから先の視界も明瞭になってきます。状況判断も、おのずとよりリアリティーを伴うものになります。これは「揺らぎ」というよりは、「意思決定の更新」です。変化が起こりうるからこそ、対話を続けること、そしてその対話を通じて、その人の優先順位や判断基準を理解することが大切なのです。

必要なのは患者や家族と医療者との対話、医療側の押しつけに注意

 人生会議は人生決議ではありません。決めてもいい、文書に何かを書いてもいい、だけど、それはあくまでその時の気持ちのメモに過ぎないということ、状況によって変化して当然、という前提で、話し合いを重ねていくこと。あくまで本人の本当の気持ちをみんなで考え続けることが大切なのだと思います。

 僕は、訪問診療の中で毎回、患者さんとたわいもない話をしています。その中で少しずつこれまでの人生のこと、これからやっておきたいこと、やらなければいけないと思っていることを少しずつ教えてもらいます。その対話の中から、本人の人となりをみんなで少しずつ理解し、共有していきます。その繰り返し、積み重ねが、少しでも納得のできる選択に近づく唯一の方法だと思うからです。

 前述の通り、人生会議は患者だけでも、家族だけでもできません。医療専門職が加わる必要があります。そこから先の経過の見通しによって、医療やケアの選択も当然変わる可能性があるからです。専門職は人生会議のガイド(ファシリテータ)として、患者・家族が、話をしやすいタイミングやシチュエーションを見つけ、対話を重ねていく必要があります。その時に専門職が気を付けなければならないのは、自分の価値観や正義を押し付けようとしないこと。

 あなたにとっては自宅で看取られるのが一番のはずだ。

 余計な延命治療などしないのが一番幸せなはずだ。

 こんな状態の患者に胃ろうの適応なんてない。

 治らない状態で医療機器に生かされる人生なんて不幸だ……。

 知らず知らずのうちに、あるいは時に意識的に、専門職は自分たちの価値観を患者・家族に強要します。インフォームドコンセント(説明と同意)と称して、専門職の考える模範解答に誘導し、それにサインをさせるなどというのは意思決定支援でもなんでもありません。

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佐々木淳(ささき・じゅん)

 医療法人社団悠翔会理事長・診療部長。1998年筑波大学医学専門学群卒業。社会福祉法人三井記念病院内科/消化器内科等を経て、2006年に最初の在宅療養支援診療所を開設。2008年 医療法人社団悠翔会に法人化、理事長就任。2021年 内閣府・規制改革推進会議・専門委員。首都圏ならびに沖縄県(南風原町)に全18クリニックを展開。約6,600名の在宅患者さんへ24時間対応の在宅総合診療を行っている。

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