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よみうり回想サロン

回想サロン

空に浮かぶ五輪マーク見上げたあの日~泉麻人さんが1964年回想

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 懐かしい昭和を回想し、文化や風俗をユニークな視点でつづるコラムニストの泉麻人さん(63)が、「1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。」(三賢社)を出版しました。前回の東京オリンピックが開催されたとき泉さんは小学校2年生で、新聞の縮刷版や絵日記帳を手掛かりに、当時の世相を鮮やかに浮かび上がらせています。一体どうしたら55年前を、こんなに思い出せるのでしょうか――。泉さんにあの頃を思い出してもらいながら、回想の秘訣ひけつを聞いてみました。

 

“聖火ランナー”渥美清が紅白に登場

泉さんの思い出がつまった著書

 1964年を回想しようと思ったのは、出版社からの提案がきっかけ。今年は東京オリンピックが開かれるので、書店に特集の棚ができて、本を置いてもらいやすくなるはずという出版社の狙いもありました。泉さん自身、コラムニストとして昭和30年代を縮刷版で調べて執筆したことがあり、小学2年生だった1年に絞って書くのも面白いと思ったそうです。

 第1章の「63年の大晦日(みそか)の風景」では、63年12月31日の新聞の朝刊番組表や放送ライブラリーに保存されたオリジナル映像をもとにNHK紅白歌合戦の様子を再現していきます。司会は紅組が江利チエミ、白組は宮田輝。冒頭、出場歌手が勢ぞろいしたところに、聖火ランナーに扮(ふん)した渥美清が後方の客席からステージに入ってくるオリンピック前夜らしい演出もありました。食卓の掘りごたつに身を沈ませてうつ伏せになりながらテレビを見ることの多かった泉さんは、番組の後半、初出場で「高校三年生」をうたった舟木一夫の登場を、「ぼんやりながら記憶に残っている」と書いています。

 

オリンピック機に街や遊びも変わった

7歳の頃の思い出にひたる泉さん

 このほか本の章立てをみると、「舟木一夫がアイドルだった」「巨人少年のファン手帳」「柏鵬と三羽ガラスの時代」「シール・ワッペン・切手少年」「忍者というヒーロー」など、テレビで夢中になった歌手やスポーツ選手、そして遊びの思い出を中心につづられていきます。

 テレビゲームのなかった時代、遊びといえば屋外でした。泉さんは当時を振り返り、「ちょうどオリンピックの年あたりを境に、メンコやベーゴマなど路地裏の遊びは下火になり、舗装道路ができたので、そこで遊べるローラースケートやスーパーボールがはやりました」と教えてくれました。 道路が建設されるときには、近くの空き地や原っぱに土管が置かれ、子供の遊び場所になりました。大通りには台形でフタのついた共同のゴミ箱があり、各家庭のごみをまとめて入れていましたが、東京オリンピックを境に姿を消し、各家庭がプラスチック製バケツを出す、その後のごみ収集のスタイルに変わっていったそうです。

 農地か空き地か道か、区別がつかない「無防備」な場所があり、子供が近道で通り抜けられました。オリンピック後は、フェンスで仕切られたり、アパートが建てられたりして、住宅地からおおらかさがなくなっていったそうです。「いろんなものが変わりつつある時期のオリンピックだったし、オリンピックをきっかけに町の構造やライフスタイル、子供の遊びも変わっていきました」と泉さん。

 

強烈な印象残したアベベ

1964年東京オリンピックの開会式を伝える読売新聞の紙面

 本で紹介されている開会式の日のエピソード。泉さんが通っていた新宿区立落合第一小学校の年報を見ると、オリンピックの開会式があった10月10日の午前、「全校体育。春に運動会を済ませたがオリンピックで運動熱がもりあがった」とありました。三波春夫の歌で知られた東京五輪音頭を踊ったと思われますが、泉さんの記憶からは抜け落ちています。開会式の3日前にはぎょう虫検査が始まったという記載があり、新旧の出来事がオーバーラップしています。

 開会式で、航空自衛隊のアクロバット部隊・ブルーインパルスが空に五輪のマークをスモークで描くパフォーマンスを披露しました。これをテレビ中継で見ていた泉さんは、「ナマで眺められるのでは」と考えてすぐに外に飛び出し、「通い始めた床屋の前の空き地で空を仰いで眺めたことを鮮烈に覚えている」と記しています。

女子バレーボールの金メダル獲得を伝える読売新聞の紙面

 選手で一番記憶に残っているのはオリンピックで2連覇したマラソンのアベベ・ビキラ(エチオピア)。名前が変わっていたから、銅メダルを獲得した円谷幸吉以上に覚えているそうです。女子バレーボールの金メダルは名場面として、映像が繰り返し放送されましたが、個々の選手の名前は記憶に残らなかったそうです。日本人として最初に金メダルをとった重量挙げの三宅義信の姿も覚えていますが、見た目のインパクトもあったアベベの印象が強烈といいます。

 外国人がまだ珍しかった時代です。町で見かけた外国人にサインをもらったという話もよく聞かれたといいます。 今年、56年ぶりに東京で開かれるオリンピックについて、泉さんは「スポーツ競技を見る土壌は前回よりも養われており、関心は高い」とする一方で、「サッカーやラグビーのワールドカップなど世界的なイベントが増えたせいで、オリンピックを特別なイベントとみる感覚は薄れている」といいます。

 マラソン競技の会場が東京から札幌に変更になったことはショックでした。「東京という街を書いてきたものとしては、競技が2020年の東京の風景とともに記憶されることが重要だと考えていました」と残念がっています。

 

思い出すにはまず、きっかけとなる資料が大事

昔買った怪獣の本は今も大事にとっている

 泉さんの著書を読んで感じるのは、55年も前のことを、よくもこんなにたくさん思い出せるものだなということです。その点について泉さんに聞くと、最初はうろ覚えのところが多いが、調べていくうちに、だんだんと細かく浮かび上がってくる、といいます。「記憶力がありますね」と言われることも多いそうですが、中学、高校時代から物心ついた頃を思い出すのが好きでした。古雑誌や新聞の縮刷版を古本屋で見つけて読んでいたので、以前から1960年代からの記憶が強化されていたこともあるそうです。

 ただ、年をとるにつれて、いろんな知識が身につき、興味の対象は変わります。昔から吉永小百合が大変な人気だったことは泉さんも知っていたけれど、その頃、「草加次郎」の偽名をかたった一連の脅迫事件が起き、吉永小百合の自宅にも脅迫状が届いていたというような、社会的事件は最近知ったそうです。「平凡」や「明星」といった当時の芸能雑誌を読み返すと、アイドルが対談で、日に2000通以上は来るというファンレターをどうしたらいいかが悩みで、何が入っているかわからなくて不安、などと語っている様子が同書に引用されています。泉さんは、当時の芸能界は今のように厳しく管理されていないから、危なっかしい反面、当時の雑誌などを読み返すと新鮮で、面白いと感じるといいます。

 泉さんは、これから回想を楽しもうという人に次のようにアドバイスしてくれました。 「『よみうり回想サロン』のDVDもいいし、図書館で新聞の縮刷版を思いついた時代からめくってみるのもてっとり早い。新聞はすべてのジャンルを網羅しているので、その時期に新聞を読んでいたら、昔見た広告とか懐かしいものを発見できる。そういうものですよ、記憶の素(もと)って。家に残っている日記や作文、絵画帳、通信簿、古い昆虫図鑑、怪獣大事典なんかを引っ張り出してみるのも面白い。あっという間にタイムスリップします」

(クロスメディア部 小坂剛)

著書を手にする泉さん

  泉麻人(いずみ・あさと) 1956年、東京生まれ。慶応大学商学部卒業後、東京ニュース通信社に入社。テレビ雑誌の編集者を経てフリーに。東京、昭和、サブカルチャー、街歩き、バス旅などをテーマに数々のエッセー、コラムを発表。著書は「大東京23区散歩」「東京23区外さんぽ」「大東京 のらりくらりバス遊覧」「冗談音楽の怪人・三木鶏郎~ラジオとCMソングの戦後史」など多数。

 

 読売新聞社は、DVD「よみうり回想サロン・昭和から平成編」を好評販売中です。「昭和20年代編①」「昭和30年代編①」「昭和40年代編①」に続く第4弾です。DVDを使ったベテラン記者の「出前レク」(有料)も受け付けています。問い合わせは、「よみうり回想サロン受付センター」(03・5226・9932)まで。(下のロゴをクリックすると「よみうり回想サロン」ご案内ページに移動します)

 

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