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リングドクター・富家孝の「死を想え」

コラム

野村克也さんを突然死させた「虚血性心不全」は防げる死だったのでは

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冠動脈の一本が90%詰まっていた

 2回目は、1回目の手術を受けてから8年後、2012年12月22日の朝方で、私は前回と同じような胸痛に再び襲われたのです。このときは背中にも痛みが出ました。それで、再度、南淵医師に連絡し、検査を受けると、今度は冠動脈の上のほうの90%が詰まっていました。このときは開胸して冠動脈バイパス手術を受け、約2週間入院して、お正月を病院のベッドで過ごしました。

 南淵医師は、「ステントを入れても、何年かすれば、また必ず動脈が詰まることがありますから、結局、バイパス手術が必要ですよ」と、前回の手術時に言っていましたが、まさにそのとおりになりました。

薬を飲み、枕元には血圧計

 以来、私は、降圧剤の「ブロプレス」、「テノーミン」、「アムロジン」(カルシウム拮抗薬)、血液をサラサラにする「プラビックス」などを服用し続け、枕元には血圧計を置いて、いつでも測れるようにしています。また、肉を中心とした食生活を改善し、軽い運動も欠かさないように努めています。

 虚血性心不全による突然死ということで言えば、日頃の心がけ次第ではある程度まで防げると言えます。ただし、高齢になればなるほど老化が進むので、必ずしもそうは言い切れません。とくに、一人暮らしになった場合、痛みに襲われたとき自分で連絡できなければ、そのまま苦しみのなかで、心臓は止まってしまいます。

 野村さんの場合、妻の沙知代さんが亡くなってから一人暮らしをしていました。最近は、足腰も弱り、車椅子生活でしたから、体力的には手術できなかったかもしれません。

 虚血性心不全の「虚血」とは、血液が失われる、血管を通して血液が運ばれないという状態を言います。血液は、人間の体をつくっているすべての細胞に酸素と栄養を送っているので、血液が運ばれないと細胞は死んでしまいます。

 血液を全身に運ぶ血管を動脈と言い、心臓に血液を運ぶのが冠動脈です。冠動脈は何本もの枝状の血管に分かれていて、心臓の表面にまとわりつくように張り巡らされています。冠動脈の「冠」は、その状態を指しています。

 冠動脈こそは、命にかかわるもっとも重要な血管で、ここが細くなったり、詰まったりすれば、「虚血」が起こって、心臓は止まってしまうのです。

冠動脈の血管で動脈硬化が進むと

 冠動脈の血流が悪くなった状態を「狭心症」と言い、冠動脈が完全に詰まり、詰まった先の細胞が完全に死んでしまった状態を「心筋 梗塞(こうそく) 」と言うのです。

 虚血性心不全の代表的な症状は、私が経験したような激しい胸の痛みです。ほうっておくと、痛みは胸にとどまらず、肩から腕にかけて広がり、発汗したり、おう吐したり、腹痛を起こしたりすることがあります。つまり、一刻も早い処置が必要です。

 現在、日本には心臓手術の名医が数多くいます。日本人は手先が器用なので、外科医に名医が多いのです。前記した南淵医師や、天皇陛下の執刀医を務めた天野篤医師がそうです。

 現在、心臓病の治療は「カテーテル治療」が広く普及しています。狭心症や心筋梗塞などの虚血性心不全の治療では、いまやこのカテーテルが中心になっています。専門的には「経皮的冠動脈インターベンション(PCI)」と呼ばれ、手首や脚の付け根からカテーテルを入れ、風船やステントを使って、狭くなった冠動脈を広げる手術です。

 高血圧や糖尿病などの持病を持った方は、生活習慣に配慮し、ご自身の心臓の働きに常に注意を怠らないように心がけるべきです。(富家孝 医師)

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富家 孝(ふけ・たかし)
医師、ジャーナリスト。医師の紹介などを手がける「ラ・クイリマ」代表取締役。1947年、大阪府生まれ。東京慈恵会医大卒。新日本プロレス・リングドクター、医療コンサルタントを務める。著書は「『死に方』格差社会」など65冊以上。「医者に嫌われる医者」を自認し、患者目線で医療に関する問題をわかりやすく指摘し続けている。

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1件 のコメント

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老化や全身血管病は心臓以外の症状もある

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

ニュースはショックでした。 2年前の学会発表に名言を使わせて頂きましたし、学生サッカー指導にも著書の内容を使わせていただいたので。 やはり生きる...

ニュースはショックでした。
2年前の学会発表に名言を使わせて頂きましたし、学生サッカー指導にも著書の内容を使わせていただいたので。
やはり生きる気力の根幹が奥様の死去で失われていたことが根本原因でしょうか?

人間の生きる理由とは、本能の外周に自らの欲求で形作るものと他者から与えられるものでデコレーションしたようなものだと思いますが、外的要因も様々な形で大事です。
同じ困難を目の前にした時に、どういう感情や行動が引き出されるかの個性があるからです。

さて、古典的な心筋梗塞の症状は本文の通り、胸の症状、歯の症状、左肩の症状ですが、その前駆状態や亜型としては肩こりや右肩の症状なども知られています。
また、心臓が血液を全身に循環させるので、頭部や腹部、四肢に虚血症状が出ることもあり得ます。
一番見逃しやすいのはNOMI(非閉塞性腸管虚血)とか一過性の脳虚血かもしれません。
最近のCTであれば冠動脈もくっきりと移りますが、あるいは低被ばくCTや高速MRIの進化も含めて、前駆状態からもっと可視化されていくのかもしれません。

いずれにせよ、突然死そのものは防げたかもしれないと言えばそうなのかもしれませんが、人生の最後まで様々な制限をつけてまで生きるのは月見草らしくないとボヤかれたかもしれないですね。
慢性疾患やそこからの救急症状の評価や予測ができるということは死に方を選べる側面もあります。

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