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Dr.若倉の目の癒やし相談室 若倉雅登

医療・健康・介護のコラム

人間ドックで「視神経乳頭陥凹拡大」と言われたら…、緑内障?

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人間ドックで「視神経乳頭陥凹拡大」と言われたら…、緑内障?

 日本緑内障学会が大規模な調査をした研究で、40歳以上の日本人の約20人に1人は緑内障を持っているという推計が出ています。このうち8割は、 隅角(ぐうかく) (眼球の前面の「角膜」と、その内側で明るさを調節している「虹彩」に挟まれた部分)が開放している「開放隅角緑内障」に属するものです。

 緑内障に対して、「怖い病気」「失明する病気」との印象をもつ方は少なくないと思いますが、正確なことを知っている方は多くありません。

 50歳になってから毎年全身の人間ドックを受けているKさんは、「視神経乳頭 陥凹(かんおう) 」と判定され、眼科を受診することを勧められました。何のことかわからないまま、会社近くの眼科医を受診すると、

 「それは、緑内障のことです」と説明され、点眼薬を処方されたといいます。

  Kさん  「視神経乳頭陥凹拡大」って何ですか? 何だか恐ろしげな名前ですが……。

  若倉  視神経は網膜に入った視覚信号を脳に送る神経ですが、その始まりである視神経乳頭は眼球の後端にあり、我々は眼底検査でその形状を観察することができます。視神経乳頭は、網膜の神経線維の集まりで、その中央部分に凹み(陥凹)があります、緑内障の場合、その陥凹が大きくなることが特徴ですので、ドックでは緑内障を見つけるスクリーニングとして利用しています。

  Kさん  では、私は緑内障で、点眼薬をずっと続けなければいけないのですね。

  若倉  近所の眼科で、眼圧検査や、視野検査も受けたのですか。

  Kさん  眼圧は正常だと言われました、視野検査は今度やるかもしれないとのことです。

  若倉  だとすると、緑内障と決まったとはまだ言えないでしょう。「視神経乳頭陥凹」は近視の方でもありうるし、健常な方でも生理的陥凹はあるのです。緑内障では陥凹の拡大がみられるのですが、専門家でも判定結果は必ずしも一致しないことがあります。視野検査や、眼底三次元断層(光干渉OCT)検査といった検査結果の評価を組み合わせて総合的に判断します。

  Kさん  では、セカンドオピニオンの受診をしたほうがいいのですね。

  若倉  ドックで「視神経乳頭陥凹拡大」とされたものの、30~40%は緑内障ではないという発表もあります。つまり、誰が見ても緑内障だと判断できる例から、経過を観察しないと判定できないものまで、かなりバリエーションがあるのです。特に進行性の強度近視に緑内障が合併しているかどうかは判断が難しく、意見が分かれます。その意味でも、セカンドオピニオンはお勧めです。

 解説します。緑内障の診断の条件として、かつては眼圧が高いことが前提条件でしたが、日本人には開放隅角緑内障のうちでも「正常眼圧緑内障」が多いことがわかって以来、眼圧の診断における位置づけの順位が下がりました。

 視神経乳頭や視野検査の評価は、かなりの専門性が必要ですし、先ほど述べたように意見が分かれることもあります。OCTなどのコンピューター診断に頼りすぎると過剰診断(緑内障でないのに緑内障とされる)になりやすく、また、いったん緑内障のレッテルを貼られると、点眼治療等を継続するために、生涯、眼科に通院しなくてはなりませんから診断の正確さはとても重要です。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年、東京生まれ。80年、北里大学大学院博士課程修了。北里大学助教授を経て、2002年、井上眼科病院院長。12年4月から同病院名誉院長。NPO法人目と心の健康相談室副理事長。神経眼科、心療眼科を専門として予約診療をしているほか、講演、著作、相談室や患者会などでのボランティア活動でも活躍中。主な著書に「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、「健康は眼にきけ」「絶望からはじまる患者力」「医者で苦労する人、しない人」(以上、春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社新書)など多数。明治期の女性医師を描いた「茅花つばな流しの診療所」「蓮花谷話譚れんげだにわたん」(以上、青志社)などの小説もある。

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