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医師が教える「女と男、髪と地肌の話」 田中洋平

医療・健康・介護のコラム

この季節。寒気も抜け毛の原因だって知っていますか?

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 気温の低い日が続きますね。寒さから頭皮を守ることも、髪の大切な機能です。

 散髪をしたら、頭と首が寒くなって、風邪をひいた経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。頭髪は、冷たい空気、風から、頭部を守ってくれているだけでなく、実は内部にできた空気の層が、断熱材として働いてくれているのです。

 実はこのメカニズムは、薄毛・抜け毛の進行にも関係しているのです。

 頭髪がないと、大切な断熱材もありませんから、冷気に直接さらされて、熱が奪われるだけでなく、頭皮からどんどん熱が放散されていきます。そこで、なるべく熱が奪われないようにと、頭皮の表層の血管が収縮します。この縮み癖がついてしまいますと、血流は低下、組織を栄養できなくなり、維持できなくなるのです。

 これも、抜け毛が進行する悪循環の始まりになります。組織を維持する力が低下することで、毛根、そして毛根に付属する筋肉の機能も低下し、頭髪がますます維持できなくなるわけです。徐々に頭皮も薄くなっていきますので、さらに機能は低下していきます。

 血流や筋肉の組織低下、さらに抜け毛ホルモン(ジヒドロテストステロン)、ストレスなど様々な原因から、一度始まると薬物治療なしでは、止めることが難しいのです。

 寒さによる頭皮の血管の収縮が薄毛・脱毛の意外な要因になる可能性について、ご理解いただけると思います。

 夏の強い日差しはもちろんのことですが、寒い季節にも、頭皮や頭髪を直接冷気に曝さないように、帽子などで保護することをお勧めします。

人種、居住地域と髪の毛の関係

 気温と頭髪の重要な関係は、人種や居住地域による違いを見ても明らかです。私のクリニックには、世界中から患者さんがいらっしゃいますが、人種や居住地は医学的に見ても、とても興味深いテーマの一つなのです。

 一般的に、祖先から暑い地域に順応している南方系の有色人種は太く、硬い毛髪を持っています。対照的に、祖先から寒冷地で生活してきた白人の場合、頭髪に限らず、全身が細く繊細な産毛で覆われています。頭髪は細いけれども、本数が極めて多くて、密度が高いです。しかも、メラニン色素が少なくて、色素が薄く、伸びるのが早いです。

 なぜ?と不思議に思われますよね。

 実は、体が黒い色素を作るのは大変なのです。肌も細胞を守るために、必死にメラニンを作ります。紫外線を吸収させて、周りの細胞を守るためです。

 光線の強い地域では、メラニンをたくさん作って黒くし、光線から頭皮を守っています。一方の寒冷地では、強い光線よりも、厳しい寒冷から頭皮を守らないといけないので、色素は薄くてもよく、「細いけどびっしり」のほうが都合は良いのです。

 細くて、密度の高い頭髪は、頭皮と頭部を寒さから守るのにとても合目的です。最小限の生物学的コストで体温を保持するために、色素も薄くなり、細くなっていったと考えられます。

髪だけでなく脂肪も

 ちょっと頭髪の話からはそれますが、クリニックにいらっしゃる白人の患者さんを診察している際、いつも考えさせられるのが、断熱材としての脂肪組織についてです。

 祖先から寒冷地に順応している白人は、脂肪組織の中でも、新生児や冬眠動物が多く持つ「褐色脂肪」が多く見られます。専門的な解説は避けますが、もう一つの「白色脂肪」の組織に比べ、多くの酸素を必要とするため、毛細血管が多く集まる特徴があります。

 血流が多いため、断熱効果に優れており、褐色脂肪を多く持つ人、つまり白人の人々は、南方系のアジア人に比べて、寒冷地に順応できるようになっている傾向にあります。

 私たち日本人が、ダウンコートにマフラー、ブーツ、帽子で寒さに凍えていても、寒冷に慣れている白人は、はるかに薄着でも平気だったりします。明らかに脂肪組織の断熱効果の差であり、人種による違いに驚愕します。

進化の過程で、必要なものが残る

 私たちの体の組織は、すべてに大切な存在意義があります。それもそのはずで、生命の進化の過程で、生命と種の存続をかけて、必要なものを必死で維持してきた結果ですから、無駄なものは何もないはずなのです。

 知られているように、私たちのはるか先祖は、顔の一部と手のひら、足の裏以外の全身が長い体毛でびっしりと覆われていました。進化の過程で衣服を身に纏うようになり、こすれるところから毛髪は減少して、頭部や陰部などの身体の一部に残すだけになりました。

 なぜそうなったのでしょうか。

 生命体は生き残ることに精いっぱいです。不要なものを備える余裕はなくて、本当に必要なものだけを次世代に残してきたのでしょう。

 頬や手足がつるつるなのに、頭だけふさふさ。それは、生命活動をつかさどっている脳、つまり頭部を守ることが、いかに大切だったかということでしょう。

それって、本当にムダ毛?

 私のクリニックには、身体中の「ムダ毛」を、レーザーで永久脱毛したいと受診される患者さんもたくさんいらっしゃいます。見た目を重視する現代では嫌われ者ですが、機械的刺激、太陽光、熱線、寒冷から身体を守るのに必要だから残っているわけなので、本来は「ムダ」ではないはずなのです。

 それでも、日本では永久脱毛がとても人気です。コストも高いのですが、それ以上に注意が必要なのです。

 有色人種の私たちは、白人に比べて、断熱効果に優れた褐色細胞をため込みやすい体質ではありません。つまり、断熱効果に劣るわけで、それを補うための脂肪が過剰に増えやすくなってしまいます。さらに、皮下脂肪よりも内臓脂肪も増やすことにもつながります。

 安易に永久脱毛に走る前に、皮膚や組織を守る機能についても、見直していただきたいと思います。

 私が生活する長野県の冬は厳しいため、夜は頭皮が冷えないように、パーカーのフードを被って寝ます。寝付きやすくなりますし、頭皮の血流が良くなるので、養毛育毛にも効果があります。首も冷えないので、風邪もひきにくくなります。

 髪を大切にすることは、単なる見た目の問題ではなく、脳を大切にすることでもあることが、おわかりいただけると思います。 (田中洋平 形成外科医)

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田中 洋平(たなか・ようへい)

 クリニカタナカ 形成外科・アンティエイジングセンター(長野・松本市)院長 新潟薬科大学客員教授、東京女子医科大学非常勤講師。1975年生まれ。

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