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医療・健康・介護のニュース・解説

外国人患者が困惑する意味不明の英語…病院の表示にも「おもてなし」の心を

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前か、後ろか…トイレに行けない

 文法や解釈のむずかしい話は抜きにしても、 (つづ) りの間違いを放置したり、スマホ翻訳をそのまま貼り付けたりの英語表示は多い。国名の Italy Itary と間違えて表示しても気にとめていない fresh(新鮮)と flesh(肉)を間違えては、子どもがジュースを飲めなくなる。 ”Restrooms Go back toward your behind” の表示では前に進むのか、後ろに進むのか、分からず、トイレに行けない。 shinkan(新患)や saishin(再診)など、英語では理解できない日本語をローマ字化して英語に混在させたりもする。すっかり英語だから分かるだろうと思われている「アンケート」(元々はフランス語で、英語では questionnaire )や「クレーム」(「苦情」を意味する英語は complaint )など、カタカナの使用が外国人の理解を阻害させる可能性も知られていない。「てにをは」や包装紙の汚れへの感受性の高さにもかかわらず、公共の表示が、何とか意思疎通さえできればいい旅行者英語と変わらない実態。これでは、見た目も重視して盛りつける和食やいけばなを () でる日本のおもてなしの心も伝わらない。

日本人の解釈 押しつけない配慮を

 外国人に対する英語での情報量の少なさも課題であるが、英語表示の問題は、巨額を投じた国の表玄関でさえ、近くにいた「英会話ができる」人の片手間仕事に丸投げされている可能性がある。少なくとも医療者は、公共の看板はもちろん科学論文を投稿する際にも、校正をプロとする英語圏の人の目を通る仕組みを取り入れるべきだ。

 英語を母国語としない私たちが、その機微を適切に表現することは難しい。勝手に日本人の解釈を押しつけない配慮が必要だ。相手の言葉と心に気をくばることは、日本人が大切にしてきたおもてなしの心であるはずだ。

宮坂 勝之(みやさか・かつゆき)

宮坂 勝之(みやさか・かつゆき)
 医師、聖路加国際大学大学院名誉教授
 1944年 長野県生まれ。信州大学医学部卒業後、国立小児病院麻酔科、フィラデルフィア小児病院、トロント小児病院集中治療部員、国立成育医療センター手術・集中治療部長、長野県立こども病院院長、聖路加国際病院周術期センター長などを経て、2018年から現職。

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