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渡辺専門委員の「しあわせの歯科医療」

医療・健康・介護のコラム

自分で歯磨きができなくなった時、インプラントで大丈夫ですか?

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 歯を失った時、よく () めるインプラントは優れた治療ですが、1本50万円以上と高額な設定も多く、多くの人は、入れ歯と付き合っていくことになります。特に年を取って要介護になり、自分でお口の掃除がやりきれなくなると、取り外しができる入れ歯は扱いやすいのが長所。お口の掃除が不十分だと、高齢者では入院や死亡を招く 誤嚥性(ごえんせい) 肺炎の危険が増すので、使いやすい入れ歯は要介護高齢者の強い味方です。いい入れ歯を手に入れたい。それには歯科医選びが大切ですが、歯科技工士が社会でもっと評価される仕組みも必要かもしれません。

介護の歯磨きが大変だから、歯を抜いてほしい!

自分で歯磨きができなくなった時、インプラントで大丈夫ですか?

松尾歯科医院の松尾通さん

 東京・中目黒の松尾歯科院長の松尾通さん(81)は親の代からの歯科医で、2人の息子夫婦も歯科医です。

 「うちは開業して50年、7、8割が保険診療ですから、複数の歯を失った時には入れ歯を勧めます。元気な時にはインプラントもいいですが、人の体は衰退していきます。高齢になると、口の中の細菌が気管に入って起こす誤嚥性肺炎は命にかかわるので、予防には口の掃除が不可欠です。人のお世話が必要になった時、入れ歯なら外して洗えるので、管理しやすいですよ。私自身も、歯の根が割れてしまった所は部分入れ歯です」と奥歯の三つ連なった入れ歯を外して見せてくれました。松尾さんもインプラントの治療を行っていますが、歯を失った時の治療は入れ歯が基本だと言います。

 訪問歯科医の話ですが、介護している家族から「歯磨きが大変だから、残っている歯を全部抜いて入れ歯にしてほしい」と懇願されたことがあったと言います。多くの歯が残っている高齢者が年々増えていて、その中にはインプラントを入れている人もいます。衰えが進むと、うがいが難しい人も増えてきます。そんな人たちの口の掃除は、在宅でも施設でも介護者の仕事。口の掃除はけっして簡単ではなく、相当な労力や時間がかかります。そう考えると、使いやすい入れ歯の意義は大きいですね。

「入れ歯には慣れが必要。使いこなすこと」と“入れ歯の鬼”は言う

 入れ歯については、噛めない、しゃべりにくい、外れる、痛い……といった不満の声を耳にします。使いやすい入れ歯が欲しいですね。では、保険と自費では、どのような差があるのでしょうか。保険だと自己負担はさほどではありませんが、自費となると、20万円以上になることが多いでしょう。一番の違いは、保険の入れ歯は土台がレジンというプラスチックで、自費だと金属が使えることです。コバルトクロムが多く、金やチタンを使うこともあります。金属を使うと土台が薄く作れるので、違和感が少なく、飲食物の温度が伝わりやすいので、おいしく感じると言われます。

入れ歯は、自費だと快適さが違う

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総入れ歯作りに強い歯科医・村岡秀明さん

 千葉県市川市のむらおか歯科矯正歯科クリニックの村岡秀明さん(72)は、業界では総入れ歯の専門家として知られています。祖父の代からの歯科医で娘2人が後継者。この人、“入れ歯の鬼”です。歯科医や歯科技工士で作る入れ歯の研究会の実習素材にするため、65歳の時に健康な上の歯を2本抜きました。その後、「入れ歯は下が難しい」と右下を2本抜き、さらに左右にわずかずつ自分の歯が残っている入れ歯を研究してみようと、逆側を4本、一気に抜くという具合で、72歳になるまでに健康な歯を計14本抜いてしまったのです。下は入れ歯を引っかける小さい歯を残していますが、ほぼ総入れ歯が必要な状態です。

 「なぜ、そこまでして……」と質問すると、「入れ歯を作るのが好きなんだけど、やっぱり自分で使ってみないと本当のところはわからないでしょ」。これまで、保険のレジンから金属の土台まで40個余りの入れ歯を作ってきました。その経験から語ります。

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これまでに、歯科技工士と共に作った村岡さん自身の入れ歯

 「入れ歯を使うには慣れが必要ですよ。特に総入れ歯は口を結んだまま食べるとか使いこなすことが大切ですね。違和感には慣れてきますが、痛みに慣れることはないので、痛みを感じたら、すぐに歯科医院での調整が必要です。保険のレジンの土台は厚くなるから、食べることはできても、形によってはしゃべりづらいですね。工夫すれば保険でも入れ歯として使えるものはできます。でも、自費で作る金属の土台だと、強度を維持しながらすっきりとした形に作れるので快適性が違いますよ」

 入れ歯は、きちんと型を取って、噛み合わせを作って、できた後も調整を繰り返すもの。残っている歯が少ない状態で、入れ歯がずれずにピタリと密着して、噛めるようにしていくのは、なかなか技術のいる作業と言います。

 村岡さんは「作った入れ歯の噛み合わせが悪いと、動いてしまうので痛い。でも、調整すればなんとかなります。入れ歯を使っていると、急に痛くなることもあるから、通いやすい所にいる面倒見のいい歯科医を見つけてほしいですね。どうしても入れ歯は経験が物を言うので、若い先生は入れ歯が苦手な人が多いですよ」と話しています。

 自分の健康な歯を抜いてまで入れ歯にする、という歯科医は、“入れ歯の力”を信じているという言い方ができるかもしれません。

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★【完成版】しあわせの歯科医療2 300-300

渡辺勝敏(わたなべ・かつとし)
読売新聞記者(メディア局専門委員)。1985年入社。 秋田支局、金沢支局、社会部を経て97年から医療を担当。2004年に病院ごとの治療件数を一覧にした「病院の実力」、2009年に医療健康サイト「ヨミドクター」を立ち上げた。歯科については歯茎や歯根があやしくなってきた10年来、患者としても関心を持たざるを得なくなっている。立命館大学客員教授。

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